肝胆膵内科

当科では、「肝グループ」「胆膵グループ」の2グループ体制で診療を行っております。
「肝グループ」では、主に肝臓がん(原発性肝がん、転移性肝がん)に対する経皮的ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)をはじめとした肝臓に関する診療を、「胆膵グループ」ではすい臓や胆道(胆のうや胆管)の病気に特化した診療をそれぞれ行っており、各疾患や臓器に対してより専門的な医療の提供を目指しています。

胆膵グループ

肝グループ

(1)概要

 当科では、主に肝臓がん(原発性肝がん、転移性肝がん)に対する経皮的ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)を行っています。RFAとは、がんの中に直径1.5mmほどの電極針を刺し、電極周囲をラジオ波により誘電加熱することで、がんを壊死させる治療法です。局所麻酔下で行い、治療時間はおよそ1時間です。

肝臓がんの中でもっとも多い「肝細胞がん」は、ほとんどがB型およびC型肝炎ウイルス感染による肝硬変が原因で発症します。そのため、肝細胞がんの患者さんは肝機能の低下を伴っていることが多く、がんに対する治療だけでなく、肝機能をいかに温存できるかによって予後が大きく左右されます。
さらに、肝細胞がんは治療後の再発率が高いため、再発時の治療を念頭に置く必要があるという点からも、肝機能は可能な限り温存する必要があります。
このような肝細胞がんの特性から、肝臓を切除する必要がなく、身体的負担が少ないことは、RFAの大きなメリットといえます。

また、当科では治療に限らず、肝臓がんの診断も積極的に行っています。そのほか、肝腫瘍、肝嚢胞(かんのうほう)、ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)など肝臓疾患全般の診断・治療も行います。

(2)ポリシー

診断から退院までをスピーディーに行う

当科では、肝臓がんの診断から治療までをスピード感を持って迅速に行うようにしており、治療が必要と判断された場合には、できるだけ早い日程で治療を行います。

たとえば、月曜日の外来受診の検査で治療が適応と判断された場合には、最短で2日後の水曜日に入院、木曜日にRFAを実施、金曜日に術後CT検査、何も問題がなければ土曜日に退院となります。また、患者さんによっては、入院当日の午後にRFAを行う場合もあります。患者さん一人ひとりの状態に合わせて入院スケジュールを設定しているため、最短3日間で退院できることもあります。

※治療日程の一例

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
外来受診、エコーなどの検査 入院 RFA 術後CT検査 退院 自宅療養

また、当院は多列検出器型CT装置3台、高磁場装置(3テスラ装置2台、1.5テスラ装置2台)(2023年4月現在)を備えているうえ、放射線科による協力体制があるため、できるだけお待たせすることなく検査を行っています。場合によっては、初めて受診していただいた当日に精密検査を行うこともあります。

このように、検査・診断〜入院〜治療〜退院までのスピード感を大切にしている理由は、治療までの期間が長くなってしまうと、その間にがんが進行して大きくなってしまう恐れがあるためです。できる限り早く治療を行うことは、患者さんにとっても、私たち医療者にとっても、大きなメリットとなります。
私たちはこれからも、治療を決して先送りにすることなく「待たせない検査・治療」を実践していきます。

No Limit−治療の可能性がある限り、決して諦めない

当科では、限界にとらわれない「No Limit」の治療を行うことをポリシーとしています。
日本肝臓学会の肝癌診療ガイドラインの中で、RFAは「腫瘍径3cm以下、腫瘍数3個以内」の肝臓がんに推奨されると記載されています。そのため、それを超える大きさ・個数の肝臓がんに対しては、RFAが行われないことがほとんどです。
当科でも、ガイドラインの基準に沿った診療を行っていますが、RFAを行うことで患者さんの生存率を少しでも向上できると考えられる場合は、ガイドラインの基準を超えてRFAを行います。
また当科では、RFAのリスクが高いといわれている透析患者さんやペースメーカー移植後の患者さんに対しても、リスクへの対処をしたうえでRFAを行います。

この世に同じ人間は2人といません。ですから、すべての患者さんに画一的な治療適応を当てはめていては、患者さん一人ひとりに適した治療はできないと考えます。
患者さんが「もっと生きていたい」と思う限り、私たちも決して諦めません。「No Limit」を胸に、一人ひとりの患者さんにとって、最善の治療を追求していきたいと思います。

(3)特徴

転移性肝がんに対するRFAを実施

肝臓以外に発生したがんが肝臓へ転移したものを、転移性肝がんといいます。転移性肝がんに対しても、当科では積極的にRFAを実施しており、遠方から多くの患者さんにお越しいただいています。

<当科でのRFA成績>

人工胸水、人工腹水を使用したRFA

当科では、人工胸水や人工腹水を使用してRFAを行うことで、RFAを施行しづらい位置にあるがんに対してもRFAができるようにしています。
人工胸水法とは、胸腔内に人工的に水(5%ブドウ糖液)を注入する方法で、横隔膜のすぐ下にがんがあるために、肺によって超音波の描出が妨げられる場合に用います。また、がんを描出できても、穿刺する経路に肺があることで、そのまま穿刺してしまうと気胸などの偶発症が起きる危険性がある場合にも行います。
人工腹水法の目的は大きく3つあります。

  • がんと消化管または隣接する他臓器を分離し、熱損傷による偶発症を予防する
  • 肝表面のがんと腹膜を分離し、超音波の描出の改善や、焼灼に伴う疼痛を緩和する
  • 病変と横隔膜を分離し、超音波の描出の改善や、疼痛を緩和する

このように、人工胸水や人工腹水を用いることによって、RFAができないといわれた患者さんに対しても、RFAができるように取り組んでいます。

RFA専用の設備、治療環境

当科では、RFAを手術室や外来の処置室ではなく、RFA専用の治療室で行います。他診療科との手術スケジュールの関係で手術室が使用できないなどの制約がないため、治療の日程が迅速に決定できるという利点があります。
RFAは、使用する機器によって精度が大きく左右されます。そのため、超音波診断装置やラジオ波焼灼システムなど、を導入することで、治療の精度を維持できるよう体制を整えています。

豊富なRFAの症例数

当科では、肝臓がんに対して5658例(2006年~2022年の施行数)のRFAを行っています。
今後はさらなる経験の蓄積によって、RFAを必要としている多くの患者さんに治療を提供していきたいと考えています。


ラジオ波治療を受診される方へ

ほかの病院や診療所で肝臓がんと診断され、当院で治療を希望される方は、紹介状を持参の上ご相談ください。肝臓がんは一刻も早い治療介入が必要不可欠です。診断された内容についてお伝えいただき、RFAが適応かどうかなど治療方針についてご相談させていただければと思います。

受診される方へのメッセージ

当科のスタッフは、一人でも多くの患者さんに、現状よりも質が高く、迅速な医療を提供できるよう、積極的に学会活動や研究、ほかの医療機関との情報交換を行い、個々がレベルアップを図っています。また、当院で行っている人間ドックには、膵臓や胆道のがんを早期発見するために「膵臓・胆のう・胆管がんコース」を設けています。

なお、肝グループでは紹介制をとっています。外来診療日は、当科のスタッフが初診外来を行っているため、紹介状(診療情報提供書)をお持ちの患者さんは、月曜日・水曜日・木曜日にご来院いただくと、スムーズに診療を受けていただけます。

部長 寺谷 卓馬

「メディカルノート」掲載インタビュー

疾患啓発記事:
肝臓がんに対するRFA(経皮的ラジオ波焼灼術)とは?


肝グループ

胆膵グループ

(1)概要

胆膵グループでは、すい臓や胆道(胆のうや胆管)の病気に特化した診療を行っています。当グループで扱うすい臓の病気の一例には、すい臓がんや膵神経内分泌腫瘍(P-NET)などの悪性疾患、急性・慢性膵炎などの良性疾患があります。また、胆のうの病気としては、胆管がんや胆のうがん、十二指腸乳頭部がんなどの悪性腫瘍や、胆石症や急性胆のう炎などの良性疾患が挙げられます。

すい臓がんや胆道のがんは診断や治療が難しく、あらゆるがんの中でも治療成績が悪いことが知られています。私たちは、これらのがんを克服するために、検査技術や治療技術の向上を重視し、早期発見と治療成績の向上を目指しています。

(2)ポリシー

当グループの最大の目標は、すい臓がんの早期発見・早期治療です。生存率が悪いことで知られる膵臓がんを克服するために、CTやEUS(超音波内視鏡検査)などを駆使して検査・診断を行い、切除可能な段階での治療介入に努めています。

(3)特徴

すい臓がんを早期発見するための精密な検査

通常のCTだけでは、小さなすい臓がんを指摘できないことがあります。そのため、当グループでは膵ダイナミックCT、MRCP(MRIによる胆管膵管撮影)、EUS(超音波内視鏡検査)などを組み合わせた検査を行っており、手術可能な段階にある小さなすい臓がんの発見を目指しています。

【検査の解説】

  • 膵ダイナミックCT:造影剤を注入し、腹部の断面画像を数回撮影する検査です。一定の時間をおいて同じ部位のCT画像を撮ることで、正常な組織と病気のある組織での造影剤の動きの差異を確認することができます。
  • MRCP:MRI装置を用いて胆管や膵管を調べる検査です。内視鏡や造影剤を使用することなく行えるため、体への負担が少ない検査といえます。
  • EUS:体外から超音波をあてるのではなく、超音波装置のついた内視鏡を体内に挿入し、すい臓などの臓器に至近距離から超音波をあてる検査です。

EUS-FNAを用いた迅速な診断

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)とは、先端に小さな超音波発生装置を取り付けた内視鏡を用い、病変組織を採取する検査方法です。

画像検査などですい臓がんや、消化管粘膜下腫瘍の可能性が疑われた場合、EUS-FNAにより採取した組織を調べる病理診断により、確定診断をつけることができます。EUS-FNAは内視鏡を口から挿入して行うため、かつて行われていた腹部に切開を加える腹腔鏡を用いた診断に比べて、低侵襲で行えるようになりました。入院期間は、最短で2泊3日で、内訳は表の通りです。

※検査入院の一例(最短の場合)

平日1日目 平日2日目 平日3日目
入院 EUS-FNA 朝の採血に問題がなければ昼食から再開、食後に退院
一日絶食

緊急を要する胆のう炎や胆管炎の治療体制

胆のう炎や胆管炎などの胆道感染症は、発症後すぐの受診や処置が重要な、緊急性の高い病気のひとつです。当グループでは、このような緊急を要する病気に対応できるよう、医師や看護師、コメディカルスタッフが一丸となって、診療時間内・時間外を問わずERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)という検査を実施できる体制を整えています。これにより、処置が必要な患者さんが来られた場合は、当日に治療などの処置を行うことも可能になっています。

◆主な検査

◆主な疾患

がん
その他

(4)受診される方へのメッセージ

私たち胆膵グループは胆道・膵臓の病気を専門的に治療するチームです。診断や治療が難しい分野です。実際に膵癌・胆道癌は現在生存率ワースト1,2の最も成績の悪い癌です。胆膵領域の診断・治療にはERCP、EUSといった通常の胃カメラとは異なった特殊な内視鏡技術が必要であることからもこの領域を専門にしている医師は非常に少ないのが現状です。

2016年4月にNTT東日本関東病院肝胆膵内科胆膵グループはメンバーを一新し、診断、治療、化学療法に至るまで全てを私たちのチームで一貫して行い、レベルの高いチーム医療を実現しております。また積極的に学会活動、臨床研究を展開し、他施設とも交流しながら、診療のレベルアップを図り、当院の胆膵グループでは1人でも多くの方に質の高い治療ができるよう日々診療を行っております。

当グループでは膵癌の早期診断と治療を最大の目標に掲げております。EUSやCTなどを駆使して可能な限り早期の手術可能な段階で膵癌を見つけて診断し外科に手術を依頼しております。

そこには検診としてのEUSが大きな役割を担っています。小さい膵癌はCTでも発見率が80%以下ですがEUSでは90%以上発見可能です。(2cm以下の膵癌の発見率はCTでは50%という論文もあります)実際にCTでははっきりしない膵癌をEUSで発見することが出来、膵癌を早期治療出来た方も多数いらっしゃいます。

腫瘍が見つかった後の膵癌の診断・治療は迅速に低リスクを目指して行っております。膵癌の診断は最短3日と迅速に可能であり、従来ERCPで診断していたものをEUS-FNAで診断可能なため低リスク(少ない合併症)・低侵襲で行うことができます(ERCPは必要な場合にのみ行います)。外科とも密に連携しているため手術待機期間も短くするような体制としており、待機中に癌が進行してしまう危険性も低いです。手術不能の進行膵癌の患者様でももちろん迅速な治療に努めています。初診日にまず外来で血液検査、造影CTを行い、翌日から入院でEUS-FNAを行います。病理結果判明後に抗がん剤の治療ができるため初診から1週間程度で治療開始が可能です。

当グループにおける膵胆道の処置内視鏡件数は件数を重ねており、他院で施行困難なERCPも紹介を受け多数実施しております。また、EUSを用いた胆道ドレナージやのう胞・膿瘍ドレナージなどの治療も日常的に行っております。当院は内視鏡機器等の設備も整えており、当グループで治療することでこれまでは治療困難と考えられていた病変も治療可能となる事があります。ホームページ内に各種疾患の簡単な解説や当院での成績などを記載しました。膵癌が心配な方や治療方針に悩んでいる方など、紹介状を持参の上ご相談ください。

医療機関様

患者様の御紹介はいつでも歓迎いたします。ERCPで胆管挿管困難な患者様、FNAやEUSを併用した膵胆道ドレナージ(EUS-BD、EUS-PD)が必要な患者様などの高度な専門医療が必要な患者様がいらっしゃいましたら、毎週火曜日午前中の肝胆膵内科新患外来(藤田宛)へご紹介頂ければ幸いです。よくわからない膵腫瘍や胆のう腫瘍などもEUSで観察することで診断をつけることが出来ることもあります。EUSの依頼もすぐに対応させていただきます。もちろん胆管炎などで緊急の対応が必要な患者様は基本的にいつでも対応可能なので病院にご連絡ください。

藤田 祐司

▲ページトップに戻る