口唇口蓋裂による鼻の変形(唇裂鼻)の治療|形成外科医が解説
口唇口蓋裂に伴う鼻の変形(唇裂鼻)とは?
口唇口蓋裂に伴う鼻の変形は「唇裂鼻」と呼ばれ、鼻先の下垂や鼻孔の左右差などを特徴とします。幼少期に行われる口唇裂の手術によって基本的な鼻の形は作られますが、変形が残ることも少なくありません。そのため、成人期に鼻の形を整える手術を希望される方も多くいらっしゃいます。
唇裂鼻の治療には、口唇口蓋裂に関する知識に加え、鼻の形を整える手術の経験が重要です。保険診療で行われる斜鼻治療の考え方を応用して鼻の曲がりを矯正したり、美容外科的手技を取り入れて鼻尖や鼻筋の形を調整したりと、それぞれの状態に応じた治療が必要になります。また、唇裂鼻に特有の鼻孔の左右差に対しては、口唇裂手術の修正や、専用の手技を用いて改善を図ります。
唇裂鼻の修正手術は、これまで受けてこられた治療の積み重ねの上に行う、仕上げの手術です。治療経過がわかる資料や紹介状などをご持参いただけますと手術計画の参考になりますが、なくても受診いただけます。これまでの治療を大切にしながら、今後の治療について一緒に考えていければと思いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
【症例1】


上段:術前 下段:術後1ヶ月
概要
この方は「完全唇顎口蓋裂」と診断され、口唇裂、口蓋裂、顎裂の手術を受けています。幼少期に唇や鼻の修正手術も行われましたが、左右差が残っており、口元や鼻の形を整えることを希望して来院されました。
術前診察および分析

口唇口蓋裂に伴う外鼻変形では、特に正面や下方から見た際に、口唇裂側の鼻孔縁が下がっていることが多く認められます。このような鼻孔の左右差は、通常の外鼻形成術で用いられる一般的なテクニックだけでは十分な改善が難しく、唇裂鼻変形に特化した術式を選択することがあります。
また、多くの症例では、この方のように側面から見ると鼻先が下垂している傾向があります。そのため、手術では鼻尖を適切に挙上し、横顔のバランスを整えることも重要なポイントとなります。

唇については、最初の手術の際に「口輪筋」という唇の筋肉のつながりが十分に整えられていなかったため、本来は自然に盛り上がるはずの人中稜の部分が凹んで見えています。
また、初回の口唇裂手術で唇裂側の唇の長さを十分に整えることができなかった影響で、正面から見ると唇が少し引っ張られ、持ち上がったように見えます。
手術治療
鼻孔の左右差や鼻先の位置を改善する目的で手術を行いました。今回は操作範囲が比較的限られていたため、表面の皮膚に傷を作らない「クローズド法」を選択しています。
手術では、肋軟骨から作成した軟骨片を用いて鼻中隔軟骨を延長し、その先端に鼻翼軟骨を固定することで、下がっていた鼻先を持ち上げました。また、下から見た際に唇裂側の小鼻が沈み込んでいたため、肋軟骨のブロックを移植して小鼻の位置を持ち上げています。さらに、鼻の中の組織や皮膚のバランスを整えることで、鼻孔の左右差を改善しました。


左側:術前 右側:術後
唇については、口唇裂の修正手術を行うことで、正面から見た際に唇が持ち上がって見える状態を改善しました。また、「口輪筋」という唇の筋肉をしっかりとつなぎ直しながら、本来あるべき自然な人中稜の形も再現しました。
【症例2】

上段:術前 下段:術後6ヶ月
概要
この方は「完全唇顎口蓋裂」の診断で、口唇裂、口蓋裂そして顎裂の形成術を受けています。鼻の非対称を自覚され、外鼻の形態改善を希望して来院されました。
術前診察および分析
生まれてすぐに行われる初回の口唇裂手術では、分離した唇を縫合することで、離れていた小鼻が引き寄せられ、鼻の基本的な形態が形作られます。しかし、口唇裂手術によって小鼻の位置が改善されても、組織量の左右差により鼻尖や鼻孔の非対称は通常残ります。特に鼻尖は左右一対の鼻軟骨によって支えられており、口唇裂ではこの軟骨の位置や形態に左右差が生じることが問題になります。多くの場合、この方のように軟骨の左右差によって裂側の鼻先が下がって見えます。唇裂に伴う外鼻変形の修正手術では、裂側の鼻先を持ち上げて左右のバランスを整えることが重要なポイントとなります。
手術治療
鼻孔の左右差や鼻先の位置を改善する目的で手術を行いました。今回は操作範囲が比較的限られていたため、表面の皮膚に傷を作らない「クローズド法」を選択しています。
肋軟骨で作成した細片を用いて鼻中隔軟骨を延長し、その先端に裂側の軟骨を縫い付けることで、垂れ下がっていた鼻先を持ち上げました。下から見た際に裂側の小鼻が沈み込んでいたため、肋軟骨のブロックを移植し、小鼻の位置を持ち上げました。正面から見た際に、上唇の中央部分のボリュームが足りず歯が見えていたため、脂肪を移植して自然なふくらみを整えました。術後1週間で抜糸を行いました。術後1ヶ月時点ではまだ腫れが残っていますが、術後3ヶ月頃には形態が安定してきました。
補足説明
初回口唇裂手術に伴う外鼻形成について
口唇口蓋裂治療の最初のステップとして、哺乳機能および外観の改善を目的に、離開した唇を修復する初回口唇裂手術が行われます。口唇裂手術では、分離した唇を再建することにより、鼻の基本的な形態が形作られます。しかし多くの場合、唇の手術のみで十分な鼻の対称性を得ることは難しく、これまで歴史的にさまざまな工夫が試みられてきました。近年では、外鼻形態のさらなる改善を目的として、口唇裂手術と同時に外鼻形成術(primary rhinoplasty)を行う施設が増えてきています。
唇裂に伴う外鼻変形の特徴の一つは、裂側における鼻孔縁の下垂であり、鼻全体が垂れ下がって見える点にあります。初回口唇裂手術に併施される外鼻形成術では、この鼻孔縁の下垂を改善する目的で、健側の鼻孔縁を参考にしながら、裂側皮膚に新たな切開を加える方法が一般的に用いられます。切開部位で新たな鼻孔縁を形成し、健側と対称的な形態を目指しますが、実際にはいくつかの問題点が存在します。
一つ目は後戻りの問題です。術後早期には良好な対称性が得られているように見えても、長期経過において裂側の鼻孔縁が再び下垂し、元の位置へ戻ってしまう場合があります。二つ目は切開線による瘢痕の問題です。切開線が鼻孔縁と一致しない場合、瘢痕が表面に露出し、整容面で問題となることがあります。
唇裂に伴う鼻変形は、皮膚の問題にとどまらず、鼻軟骨の形態異常や鼻腔内組織量の左右差など、複数の要因が重なり合って生じます。これらの要素の中には、初回手術の段階で十分な修正が困難なものも少なくありません。そのため、初回手術のみで全ての変形を解決しようとするのではなく、成長が完了した年齢で外鼻修正術を行い、鼻形態のさらなる改善につなげるという視点が重要だと考えます。
唇裂外鼻修正は口唇口蓋裂治療の最終段階に位置づけられる治療です。その効果を最大限に引き出すためには、初回手術における外鼻形成を、将来的な修正を見据えたデザインおよび手技に留めておくことが望ましいと考えます。
この記事の監修医師
本ページ「口唇口蓋裂による鼻の変形(唇裂鼻)」に関する内容は、外鼻形成術および口唇裂手術を専門とする医師が監修しています。

鄭 和卿
NTT東日本関東病院 形成外科
経歴
- 2018年 慶應義塾大学医学部卒
- 2018年 聖路加国際病院 初期研修
- 2020年 聖路加国際病院 形成外科
- 2023年 東京都立小児総合医療センター 形成外科
- 2024年 聖路加国際病院 形成外科
- 2025年 NTT東日本関東病院 形成外科
所属学会
- 日本形成外科学会
- 日本頭蓋顎顔面外科学会
- 日本美容外科学会(JSAPS)
- 日本鼻科学会
発表・執筆・論文実績
- 2026年4月
日本形成外科学会総会・学術集会にてシンポジスト登壇
「唇裂鼻の鼻孔対称性の確立を目指して -Rim Reset IncisionとTube Theoryを用いたReverse-Uへの挑戦-」について発表 - 2025年10月
医師向け専門書『外鼻形成術』を執筆
(編集:ライノプラスティー研究会/代表編集:大竹尚之先生) - 2024年11月
日本頭蓋顎顔面外科学会学術集会にてシンポジスト登壇
「唇裂鼻治療における鼻腔内組織量を整える」について発表 - 2024年10月
ライノプラスティー研究会主催「ライノプラスティーセミナー2024」にて講演 - 2024年9月
日本形成外科学会会誌に論文掲載
「顔面症例写真撮影における最適な機材および設定」








