肝胆膵内科

膵がん

膵がんの診療はNTT東日本関東病院肝胆膵内科胆膵グループの最重要課題に挙げ、膵がんの早期発見に日々努めています。肝胆膵内科のみではなく、外科や放射線科、病理診断科など他科のエキスパートと協力して高度な治療を行うことで膵がん治療実績の向上に取り組んでいます。

膵臓、膵がんとは

膵臓は胃の裏側(背中側)にある15-20cm程度の長さの臓器です。十二指腸側を頭部、脾臓側を尾部、中間を体部と呼び、内部を膵管が通過しています。膵臓は膵液と呼ばれる消化液を分泌する外分泌機能とホルモンを分泌する内分泌機能があります。外分泌機能の代表例としてアミラーゼ(炭水化物の消化を助ける)、トリプシン(タンパク質の消化を助ける)があります。膵液は膵管を通じて十二指腸に流れますが、膵がんの多くはこの膵管ががん化したものです。

膵臓

膵がんの特徴

膵がんは近年がんによる死亡の第4位となっており、2022年は約38900人程度が膵がんで亡くなっております。今日、日本人の2人に1人ががんになると言われていますが、膵がんになる方は日本人43人に1人です。膵がんは医療が発達した現在で最も治りにくいがんの1つであり、下図に示すとおり部位別がんの死亡率で上昇しているのは膵がんのみです。膵がんが治りにくいのは発見しにくく、発見した時点で手術によって完全に取り去ることができる方は20%程度である事がその理由です。早期に発見するための検診の方法が確立されていないために発見時にはかなり進行している事が多いのです。

死亡率

■国立がん研究センターがん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2023_jp.html

膵がんの症状

膵がんの最初の症状としては多くの場合で腹痛と黄疸が見られます。その他食欲不振や体重減少、糖尿病患者さんで血糖値のコントロールの急な悪化などもありますが膵がんに特異的なものではありません。他の良性の病気でも見られるような症状なので非常に分かりにくいのです。

膵がんを治す

上記の通り膵がんは非常に成績の悪いがんですが、手術可能な状態で見つかれば治す事も十分に可能です。がんの治療成績は5年生存率で示される事が多いですが手術が可能である膵がんは5年生存率20%程度あり、膵がん全体の7.7%と比較すると大分良い結果です。したがって、「より早期」に発見する事ができれば膵がんの治療成績は良くなると考えられます。早期発見のためには当院でも行っている人間ドックなどがいい機会になります。これまでの研究で「膵がんの家族歴」、「糖尿病」、「慢性膵炎」、「膵嚢胞」、「喫煙」、「肥満」等に当てはまる方は膵がんになる危険性が高いので定期的に人間ドックなどを受けることをおすすめいたします。

●膵がんの診断

膵がんの診断は人間ドックなどで行われる様なスクリーニングと呼ばれる、拾い上げ検査で引っかかった場合に精密検査を行って診断をつけることが多いです。

●スクリーニング検査

血液検査(アミラーゼ、CA19-9など)や腹部エコーがスクリーニング検査に当たります。アミラーゼは膵酵素の一種であり、その上昇は膵がんに特異的ではありませんが20~30%のケースで上昇すると報告されています。CA19-9は腫瘍マーカーです。腫瘍マーカーはがんがある時に高値を示す項目ですが陽性率は進行がんを除くと一般的に低く、2cm以下の膵がんにおけるCA19-9の陽性率は50%程度に過ぎず早期の膵がんでは異常値を示さない事が多いので早期の膵がんの検出にはあまり役立ちません。腹部エコーは簡単にできて低侵襲なので非常に有用ですが小さい膵がんや膵尾部の膵がんの検出が困難です。

●精密検査

コンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)が精密検査に当たります。CTは膵臓全体を詳しく調べるのみでなく、もし膵がんがあった場合には病変の広がりや転移を見ることもでき膵がんの診断には必須の検査です。MRCPは膵管や胆管の異常を低侵襲で調べることが出来ます。はじめに書いた様に膵がんは膵管から発生する事が多いので膵管の異常を確認できるMRCPは非常に有用です。膵管の精査には他にも内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)がありますが、ERCPは合併症もある検査であり本当に必要である方以外はMRCPが推奨されています。EUSは膵臓のすぐ脇にある胃や十二指腸から膵臓を超音波で観察する検査です。高解像度で膵臓を観察することでCTでもわからない様な小さい膵がんも検出可能であり、当院でも積極的に行ってCTでは分からなかった小さい膵がんを発見しております。

膵がん

●膵がんの治療

膵がんの治療法としては現在外科手術、抗がん剤による化学療法、放射線治療とそれらの組み合わせがあります。膵がんを完全に治すためには手術が唯一の治療法であり、手術ができる段階で発見することが非常に重要です。化学療法などはがんを抑え、がんと共存して生きていく様な治療方法です。最近、治療の進歩により以前よりも化学療法の治療効果が高まっています。化学療法の導入時は入院ですが、その後は外来通院しながら続けていく事になります。

治療例(膵尾部癌)

●当院の膵がん治療成績

当科では年間180人以上の方に膵がんの入院検査・治療を行っており、多くの方が初診から1週間以内に膵がんの診断が出来ています。CTやEUSを用いて、手術で治療可能な患者さんを1人でも多く早期診断できるよう努めています。手術の中には腹腔動脈合併膵体尾部切除という非常に難易度の高い手術も含まれております。また、手術の適応ではない進行度の方には迅速な化学療法を導入しており、近年新たに認可されたFOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法といった強力な化学療法も行っております。その結果、診断時は手術不可能と診断された方でも、化学療法が効いて手術可能になっています(コンバージョン手術といいます)。このように、難治癌とされる膵がんの予後を少しでも良くするために日々治療を行っております。また、現在保険適応になった「がん遺伝子パネル検査」を当院で行うことも可能です。詳細は当院ホームページのがん遺伝子検査の項目をご参照下さい。
膵がんは、治療中に胆道や消化管にトラブルが起こる事も多いです。当院では、トラブル時すぐに入院し内視鏡を用いてステント挿入などの治療を行うことが出来ます。また、従来は体からチューブが出る状態になってしまった様な状態でも超音波内視鏡を用いて消化管の中にチューブを出し生活が不便にならないようにする先進治療も行っており(超音波内視鏡ガイド下ドレナージ術など)生活のレベルを落とさない様にしながら膵がんを治療できるようにしております。心配な方はいつでもご相談下さい。