泌尿器科
(1)概要
泌尿器科では、副腎、腎、膀胱、前立腺などの泌尿器系腫瘍、尿路結石、前立腺肥大症、過活動膀胱などの良性疾患、腎盂腎炎、膀胱炎などの尿路性器感染症、勃起障害などの男性生殖器疾患を幅広く扱っています。手術においては可能な限り臓器を温存し、患者さんの早期回復を目指した治療を提供できるよう取り組んでいます。
前立腺センターでは前立腺疾患全般を扱いますが、主に前立腺肥大症と前立腺がんの治療に注力しています。内科的治療から手術・放射線治療にいたるまで幅広い治療を行っています。
(2)ポリシー
臓器温存、早期回復・早期退院を目指します
当科・当センターではできる限りがん組織以外の正常組織を残し、臓器とその機能を温存するように心がけています。前立腺がんのロボット手術では、骨盤底筋と尿道をできる限り温存し、術後の尿失禁の予防に努めています。腎がんの手術では、7㎝以下であれば可能な限り腫瘍のみを切除して腎機能を温存します。
術後はすぐに歩行を開始し、食事も再開できるよう、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士などによるチーム医療を導入しています(早期回復プログラム 参照)。
(3)扱う疾患
前立腺がん
【症状】
初期の前立腺癌では自覚症状が無い場合がほとんどです。そのため、前立腺がんの早期発見には検診などでのPSA(前立腺特異抗原)測定がかかせません。局所の進行がんになると、排尿困難、排尿時痛、頻尿、血尿などの症状がみられ、骨転移があればその部位の痛みが出る可能性があります。
【原因】
肥満、食生活の欧米化などが前立腺がんの増加につながっている可能性があります。また、遺伝の影響もあり、親族に前立腺がんの患者さんがいる場合、いない場合と比べて約3倍前立腺がんのリスクが上昇します。
【予防】
明確な予防法はありません。早期発見には腫瘍マーカーであるPSAの測定が必要です。
【治療法】
ロボット支援前立腺全摘除術
放射線治療
抗がん剤治療
ホルモン療法
【予後】
病期ごとの5年生存率(純粋にがんが死因となる場合)は以下の通りです。
Ⅰ期:100%
Ⅱ期:100%
Ⅲ期:99.0%
Ⅳ期:60.0%
腎がん
【症状】
腎がんは腎臓にできる悪性腫瘍ですが、最近は健康診断の超音波検査などで小さな段階で見つかることが増えてきました。腎がんが小さい間は、特に自覚症状はありません。腫瘍が大きくなってくると、腰の痛み、腹部の膨満感、血尿などの症状が出る場合があります。
【原因】
一部の腎がんは遺伝子の異常が関連していることがわかっています(von Hippel-Lindau病など)。肥満、高血圧の方、喫煙者はそうでない人に比べて2-4倍腎がんになりやすいことがわかっています。腎不全で血液透析を受けている方は高率に腎がんを発症するため、定期的な検査が必要です。
【予防】
明確な予防法はありませんが、肥満、高血圧に気を付けることが必要です。喫煙もリスク因子であり、禁煙が勧められます。
【治療法】
7cm以下の腫瘍ではロボット手術による腎部分切除(腎臓の一部だけを切り取る手術)が標準治療です。7cmより大きな腫瘍の場合は腎摘除術の適応になります。放射線治療は効果が低く、優先されません。転移のある腎がんの場合、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用されます。
【予後】
病期ごとの5年生存率(純粋にがんが死因となる場合)は以下の通りです。
Ⅰ期:94.9%
Ⅱ期:87.9%
Ⅲ期:76.5%
Ⅳ期:18.7%
膀胱がん
【症状】
肉眼的血尿が膀胱がんの初期症状として最も多くみられる症状です。膀胱炎とは異なり、痛みや残尿感を伴わないことが特徴です。一度でも肉眼的血尿がみられた場合は受診をお勧めします。また、なかなか治らない膀胱炎の後ろに膀胱がんが隠れていることがあるので注意が必要です。さらに進行すると、下腹部痛、血尿による尿閉、絶え間ない尿意などの症状がでることがあります。
【原因】
喫煙、有機溶剤への暴露が膀胱がんの危険因子として知られています。喫煙者は非喫煙者に比べて約2-4倍、膀胱がんのリスクが上がります。
【予防】
明確な予防法はありませんが、リスク要因である喫煙、有機溶剤への暴露を避けることは重要です。
【治療法】
非筋層浸潤性膀胱がん
経尿道的膀胱腫瘍切除術
BCG膀胱注入療法
筋層浸潤性膀胱がん
ロボット支援膀胱全摘除術
抗がん剤治療
放射線治療
【予後】
病期ごとの5年生存率(純粋にがんが死因となる場合)は以下の通りです。
Ⅰ期:82.2%
Ⅱ期:54.3%
Ⅲ期:38.7%
Ⅳ期:18.3%
腎盂尿管がん
【症状】
腎盂から尿管に発生する悪性腫瘍です。初期症状として最も多いものは、肉眼的血尿です。腫瘍が大きくなり尿の流れが阻害されるようになると、水腎症に伴う背部痛、腎盂腎炎、腎機能低下などがみられるようになります。
【原因】
膀胱がんと同じく、喫煙、有機溶剤への暴露が最大のリスク因子です。
【予防】
喫煙、有機溶剤への暴露を避けることが重要です。
【治療法】
腎尿管全摘術(ロボット手術、開腹手術)
抗がん剤治療
【予後】
病期ごとの5年生存率(純粋にがんが死因となる場合)は以下の通りです。
Ⅰ期:78.9%
Ⅱ期:65.3%
Ⅲ期:53.7%
Ⅳ期:12.2%
前立腺肥大症
【症状】
前立腺が肥大したために、排尿困難、頻尿、残尿増加などの症状が出現します。
【原因】
加齢とともに増える病気であり、はっきりとした原因はありません。
【予防】
特にありません。
【治療法】
内科的治療
1.α遮断薬
2.5α還元酵素阻害薬
3.その他
外科的治療
1.経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)
2.経尿道的前立腺切除術(TURP)
3.被膜下前立腺核出術(開腹手術)
【その他】
前立腺肥大症診療ガイドライン
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/08_prostatic_hyperplasia.pdf
(4)特徴
臓器温存手術に注力
当科でのがん治療において、従来から力を入れているのは臓器温存手術です。できるだけがん組織以外の正常部分を残して、本来の臓器とその機能を温存し、治療後も快適に日常生活を送ることができるよう治療を行っています。
臓器とその機能を温存することが難しいような腎がんや腎盂がん・尿管がん・腎盂形成術などにおいても積極的にロボット支援手術を行い、患者さんにとって負担の少ない低侵襲手術に努め、早期社会復帰を目指しています。
ロボット手術による前立腺がん摘出手術
2015年より「ダヴィンチ」という手術支援ロボットを導入しています。ロボット手術では、ロボットアームが人の関節のようになめらかに動くことから細かく的確な切除や縫合が可能です。また腹腔鏡下で行うことから従来の開腹手術と比べると出血量が少なく済む傾向にあります。ほとんどの患者さんが手術後約3時間で歩行開始し、手術当日から食事を摂っていただきます。
ロボット手術による腎部分切除手術
7㎝以下の腎腫瘍は腎部分切除を行い、腫瘍以外の正常腎組織を温存します。手術後は一時的に腎機能が低下しますが、片方の腎臓をすべて摘出してしまう場合に比べ、腎機能の温存が可能となります。腎部分切除をご希望の患者さんはぜひ当院にご相談ください。
ロボット手術による膀胱摘出手術
筋層まで浸潤する膀胱がんに対する標準治療は膀胱全摘除術です。当院では2021年よりロボット支援膀胱全摘除術を開始しました。膀胱全摘後は尿路変更が必要ですが、当科ではすべての工程を腹腔内でロボット支援下で行っています(回腸利用新膀胱、回腸導管、尿管皮膚瘻)。腹腔内で尿路変更を行うメリットの一つは術中に腸管の乾燥がないことです。結果的に術後の麻痺性腸閉塞の発生率が大幅に減少します。開腹手術に比べて早期回復、早期退院が可能になりました。(Advantages of enhanced recovery after surgery program in robot-assisted radical cystectomy. Nakamura M et al., Sci Rep. 2023 Sep 27;13(1):16237)
VR手術ナビゲーションの導入
VR手術ナビゲーションとは、二次元のCT画像やMRI画像を立体化するシステムです。立体的に手術部位を確認できるためより正確な手術につながり、出血量の減少や手術時間の短縮につながっています。主に腎がんに対する腎部分切除前の手術計画に利用しています。
早期回復プログラム(Enhanced Recovery After Surgery: ERAS)
ロボット手術の前後に早期回復プログラムを導入しています。手術2時間前にジュースを飲んでいただき、手術後3時間から食事を開始します。また、理学療法士が立ち会い術後3~4時間で歩行を開始します。多職種チームによるサポートで、入院中の合併症低減に積極的に取り組んでいます。
MRI・超音波融合前立腺針生検
当院では、全身麻酔で前立腺に針を刺して組織を採取する検査を行っています。MRIでがんが疑われる部分がある場合、その部位を超音波画像に重ねて見ること(融合)ができます。これにより、がんの疑いの部分を正確に針で刺すことができます。この検査は、超音波画像だけではがんの部分がわからない場合や、以前の検査で診断できなかった場合にも有効です。より正確ながんの診断が可能になり、根治的治療が必要な患者さんの発見に寄与すると考えられます。
泌尿器科・前立腺センターを受診される方へ
当科・当センターでは、安心して手術や治療を受けていただけるような体制づくりに力を入れています。日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医によりガイドラインに則った治療を提供します。がんの手術や治療を希望される場合、紹介元の先生からの紹介状をご持参ください。可能であれば直近の画像診断資料や病理診断資料も併せてご持参ください。検査の重複を避け、速やかな治療につなげることが可能になります。また治療後は紹介元の先生やその他地域の診療所・クリニックと医療連携して経過観察を行っていきます。お薬手帳をお持ちの方は医師と薬剤師が確認をしますのでご持参をお願いします。現在の治療について不安のある方、他の治療法について知りたい方は、セカンドオピニオン外来をご利用ください。当院で提供可能な治療のみではなく、時間をかけて広く一般的な情報を提供いたします。
部長 中村 真樹
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