NTT東日本 関東病院 ロボット手術センター

ロボット手術センターとは

当センターは、泌尿器科、呼吸器外科、外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科という複数の診療科が一つの部門として集約することで、機能的に手術を実施できる体制を整えています。

高い専門性や技術を持ち、豊富な実績を有する医師で構成され、厳しい認定を受けた医師が多数在籍しています。ロボット手術を含むがん治療において、ハイレベルな「医師・技術」「実績」「治療環境」「サポート体制」を備えた病院として、今後もより良い医療を提供してまいります。

当センターにおけるロボット手術の対象疾患 (2024年4月現在)

保険適用
■泌尿器科
  • 腎がん
  • 前立腺がん
  • 膀胱がん
  • 腎盂尿管移行部狭窄
■外科
  • 胃がん
  • 直腸がん
  • 食道がん
  • 結腸がん
  • すい臓がん(膵体尾部切除)
■呼吸器外科
  • 原発性肺がん
  • 転移性肺腫瘍などの肺悪性腫瘍
  • 縦隔腫瘍全般(胸腺腫、神経原性腫瘍など)
  • 重症筋無力症
■耳鼻咽喉科・頭頸部外科
  • 咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)
  • 喉頭がん
ダヴィンチ

医師紹介・実績

ロボット手術センター 志賀 淑之|ロボット手術センター長
ロボット手術センター 志賀 淑之 ロボット手術センター長
1994年筑波大学医学専門学群卒業。虎の門病院、聖路加国際病院勤務、東京腎泌尿器センター大和病院院長を経て、2019年から現職。CT・MRI画像を立体化するVRナビゲーションシステム開発に携わる。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。

「ロボット手術は直接、患者さんの体に触れている感覚がない治療です。だからこそ、それを扱う医師は手当てや心のケアができなければなりません。高度な治療を提供しながら、温かみのある医療を心がけてまいります」

泌尿器科では前立腺がんの前立腺全摘除術、腎がんの腎部分切除、膀胱がんの膀胱全摘除術、腎盂尿管移行部狭窄に対する治療をロボット手術で行っています。6カ所の小さな傷口からできる手術で、出血が少なく、合併症を抑えられるのが特徴です。
ロボットのアームで細かい操作が可能なため、排尿などの機能を温存できる可能性が高いというメリットがあります。低侵襲なので、手術の翌日には立って歩けるほどに回復する患者さんもいらっしゃいます。
また、泌尿器科では、腫瘍塞栓などのロボット手術では対応できないような広範囲にわたる切除術にも対応しているほか、難症例にも対応できるのが強みです。

ロボット手術ならではの特徴を教えてください。
泌尿器科におけるロボット手術は、6カ所の小さな傷でできます。
男性の骨盤は握りこぶし一個分しか幅がないんです。そこに術者と助手の両手が入ったら狭いし、奥の方は暗くなってしまいます。そして、ここには足から戻る血管などが集まっていて、傷つけると大出血してしまう可能性があるので、術者の技量が如実に出る手術です。開腹手術では、経験の少ない医師だと2.5ℓは出血することもあります。
一方、ロボット手術では、多くの場合には出血は100cc程度で、無輸血で手術可能なことが多いです。それは、ロボット手術では頭側を25度下げた状態とし、腸や膀胱を上へ移動させているのと、お腹の中を炭酸ガスで膨らませるので、気腹圧といって普通の気圧よりも高い状態となるためのようです。加えて、ロボットのアームでは細かい操作ができるので止血術も丁寧にできますし、余計な糸と針を使ったり、電気メスによって熱で凝固して血を止めたりする操作も少なく、出血による貧血も抑えられます。これらによって、ペニスを勃起させる機能を維持したり、合併症を少なくしたりできるようになってきました。さらに、退院までの期間も短く済む傾向にあります。
ロボット手術では、術後7日目で退院する方が多く、開腹手術だとプラス3日くらいになる傾向があります。
ロボット手術の実績について教えてください。
私は2015年にロボット手術センター立ち上げのために当院に召致され、2019年よりロボット手術センター長に就任しました。これまで1,000件以上のロボット手術に携わってきた中で、さまざまな合併症や難しい症例にも対応してきました。
当院の泌尿器科においても、2015年からロボット手術を行っています。泌尿器科だけで年間100件以上のロボット手術を行っており、技術レベルをキープすることもできると考えられます。
ロボット手術の治療体制や取り組みについて教えてください。
当科は、単にロボット手術を行うというだけでなく、がんを扱う診療科として、ロボット手術では対応できない、がんを広範囲に合併切除する拡大手術ができる、スペシャリストが在籍しています。 また、抗がん剤治療を実施する腫瘍内科とも密に連携を取り、必要な方については併診していきます。抗がん剤のメンテナンスや選定を含めて、一緒にカンファレンスを行っています。 さらに、緩和ケアセンターとの連携も非常にスムーズです。外科的なアプローチだけではなく、内科的なアプローチや心のケアを包含し、チームとしてしっかりと治療にあたっています。患者さんをトータルで治す全人的治療を考えています。
最後にメッセージをお願いします。
当院ではロボット手術における、バーチャルリアリティ(VR)を導入しています。このVRの立体映像を用いて、手術前のシミュレーションができます。
また、複数のゴーグルを用い、大人数で多面的に立体映像を見ることができるので、助手、麻酔科医師、看護師との連携に有効です。さらに、録画記録をすることで、術後の手術検証や教育に使用することも可能です。まだ全例には使用していませんが、今後広げていきたいですね。
患者さんにとっての最大の低侵襲は、がんの再発をしないことですから、そのための精密な治療を追求していきたいです。また、ロボット手術の術者の教育・指導も使命だと考えています。
私自身、ロボットには触覚がないからこそ、患者さんの手当てができる、心もケアできるような温かみのある治療を心がけています。高度な技術を持ちながらも、きちんと患者さんに寄り添えて手当てできる、触覚を持った、感じられる外科医を育てていきたいです。
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泌尿器科 中村 真樹|泌尿器科部長
泌尿器科 中村 真樹 泌尿器科部長
2001年東京大学医学部卒業。2011年東京大学大学院医学系研究科外科学専攻修了。専門は、泌尿器悪性腫瘍、ロボット支援下手術。東京大学医学部附属病院などでの勤務を経て、2023年より現職。東京大学医学部非常勤講師。東京医療保険大学 大学院看護学研究科 臨床教授。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。
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「泌尿器科の分野では腎臓がん、副腎腫瘍、尿管がん、膀胱がん、前立腺がんの手術にロボット手術が適用されています。傷が小さく、患者さんの負担も小さい手術が可能です。当科には経験豊富な医師が複数おり、多くのロボット手術を施行しています」

患者さんにとって、手術は大きな決断を要する一大事です。手術そのもの、あるいはその後の人生について大きな不安を持ちながら、病院を信じて命を預けてくださっていると感じています。そのような患者さんに低侵襲な治療を提供できるのがロボット手術です。手術後に早く元気になっていただき、日常生活に戻っていただくようにサポートするのが我々の使命です。
ロボット手術に加え、手術前後に適切な治療をすることでさらに患者さんの回復が早められることが報告されています。泌尿器科では2021年より「術後早期回復プログラム(Enhanced recovery after surgery:ERAS)」を開始し、ロボット手術を受ける患者さんに提供しています。

ロボット手術ならではの特徴を教えてください。
ロボット手術では腹腔内に二酸化炭素を充填して手術を行うため、出血量が少なく抑えられます。また、拡大されたカメラ映像を3Dで見ながら手術を行うので、重要な解剖構造の温存も行えるようになりました。たとえば前立腺全摘術の場合、骨盤底筋、尿道括約筋、骨盤内臓神経などは術後の尿禁制にとって非常に重要ですが、出血のない拡大視野ではこれらの温存が可能になります。我々も2022年に骨盤底筋の温存が術後早期の尿失禁を減少させること(※1)を報告しました。
ロボット支援膀胱全摘除術ではさらに大きなメリットがみられます。当院で2015年以降に施行した膀胱全摘を振り返ると、手術中の出血量(中央値)が開腹手術では650mLであったのに対し、ロボット手術では100mLと減少していました。また、術後の合併症である腸閉塞の発症率も大きく減少しています(開腹27% vs ロボット4.5%)。膀胱摘出後の尿路変更(回腸導管あるいは新膀胱)を腹腔内で作成するため腸管が乾燥しないことに加え、後述の術後早期回復プログラム(ERAS)の効果も大きいと考えられます。

(※1)Preservation of pelvic floor muscles contributes to early continence recovery after robot-assisted radical prostatectomy. Nakamura M, et al. PLoS One. 2022;17(10):e0275792.)

ロボット手術の治療体制や取り組みについて教えてください。
2021年よりロボット手術の手術前後に術後早期回復プログラム(ERAS)を導入しました。泌尿器科医師、麻酔科医師、理学療法士、看護師、管理栄養士らがそれぞれ手術前後に患者さんに関わり、術前禁食期間の短縮、術後早期からの飲食開始、麻薬を使わない疼痛管理、早期リハビリテーションなど、多くのサポートが並行して提供されます。膀胱全摘術後では従来、手術前入院が4日、手術後流動食開始まで6日かかっていましたが、術後早期回復プログラム(ERAS)を導入してからは手術前入院が1日、手術後流動食は手術当日から開始しています。また、手術後3時間でベッドから立ち上がるなど、早期離床を行うことで合併症の低減につながっています。
当院では2023年7月より2台目の手術支援ロボットが稼働しております。より多くの患者様を安全に治療できるよう、対応してまいります。
最後にメッセージをお願いします。
ロボット手術の普及により、手術自体が患者さんに与える侵襲は明らかに小さくなりました。これからは手術前後の治療を組み合わせて、患者さんの診断から治療後の生活までを総合的にサポートしていくことが本当の低侵襲治療だと考えています。ロボット手術+術後早期回復プログラム(ERAS)によって合併症が減り、術後の回復が早くなりました。スムーズに術後補助治療や日常生活への復帰につなげられることもロボット手術の大きなメリットだと思います。当院での治療をご希望の方はいつでも来院をご検討ください。
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泌尿器科のロボット手術実績

症例数1107例
(2015年12月~2023年12月)
呼吸器外科 松本 順|呼吸器外科部長
呼吸器外科 松本 順 呼吸器外科部長
1989年山梨医科大学卒業。日本赤十字社医療センター、総合病院 国保旭中央病院などでの勤務を経て、2011年から現職。専門分野は肺がん、縦隔腫瘍。日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医。
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「肺の手術の難しいところは、患者さんによって肺の状態が違うこと。それぞれにアプローチ法を考え、テーラーメイドの手術が求められます。ロボット手術も含めたすべての選択肢の中から、ベストな治療を追求します」

呼吸器外科では肺がんに対する肺葉切除術、重症筋無力症に対する拡大胸腺全摘除術でロボット手術を実施しています。5つある肺葉のうちの1つを切り取る手術が保険適用となります。胸腔鏡手術に比べるとアームを差し込むための穴は増えますが、その分、医師が視野を広く確保できることで安全で確実な手術につながります。
条件によってはロボット手術から胸腔鏡手術に切り替える場合もあるため、開胸手術・胸腔鏡手術でも高い技術力を備えておく必要があります。当院では、患者さんに最良の治療を提供するために、幅広い治療を行う体制作りにも力を入れています。

ロボット手術ならではの特徴を教えてください。
ロボット手術では3D画像が見えており、遠近もはっきりとわかります。胸腔鏡手術に比べると、ロボット手術のロボットには術者が使えるアームが3本あり、穴は1つ増えます。一見ダメージが増えるように思えますが、このサードアームは助手のような役割をしております。そのため、サードアームをうまく使えるようになれば、ロボット手術がより効率的に進み、リスクも少なく、術者のストレスも少なくなると考えられます。
呼吸器外科では肋骨の間で手術を行うのですが、穴の数を減らす方向と、穴の数は増えるけれど安全で確実な手術をめざす方向の、2つの流れがありますね。穴の数を減らす手術は、術者に負荷がより多くかかってきます。一方、ロボット手術では術野の展開がしっかりでき、構造物を確認しながら手術できるので、手術の安全性が従来方法より高まると考えられます。
ロボット手術の実績について教えてください。
当科では2018年9月から2023年2月までの累計で369件のロボット手術を行っております。
患者さんの状態に合わせて最適な手術方法を選択する努力をしていきますが、今後もロボット手術の件数が増えてくるのではないかと考えています。
ロボット手術の治療体制や取り組みについて教えてください。
肺の手術の難しいところは、5枚ある肺葉が一つ一つ違い、常にテーラーメイドの手術になるところです。ロボット手術は選択肢の一つであり、私たちはいくつもある方法から、患者さんにとって最も安全で的確な治療を選択することが重要です。
ロボット手術は、操作や感覚に慣れてからは安全性が高いと言えるのではないかと思います。ただ、患者さん由来の難しい条件があったときには、ロボット手術から胸腔鏡手術に切り替えることも必要となります。
ロボット手術のみならず、開胸手術・胸腔鏡手術の高い技術力と対応力を備え、患者さんにとって最良の治療を提供できるような体制作りを心がけています。
最後にメッセージをお願いします。
私たちの仕事はがんを取り除くことです。そのためには、がんをしっかりコントロールすることも大切ですね。また、手術に関して言えば、アプローチ方法は大変重要です。呼吸器は立体的で、気管支、血管、肺とそれぞれ感触が違うものです。
また、患者さんによって、もろい肺もあればかたい肺もあります。そして、一回空気が漏れたり、出血したりすると、命の危機に直結してしまいます。どのような体の向きで、どのような傷のつけ方で手術を行うかといったアプローチ方法は、構造やがんのある位置などによって、患者さんごとに全く違います。そのため、画像を見て術式をイメージしたり、患者さんの状態や体力に合わせて、手術方法を考えたりすることも必要です。そうして、私たちはロボット手術を含めた多様な選択肢を利用し、患者さん一人ひとりにとって、いい方法を提供していきます。
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呼吸器外科のロボット手術実績

症例数369例
(2018年9月~2023年2月)
外科 佐藤 彰一|外科部長
外科 佐藤 彰一 外科部長
2000年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、藤枝市立総合病院、埼玉医科大学総合医療センターでの勤務を経て、2024年4月現職。専門は肝胆膵外科。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医の資格を持つ。
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「腹部の臓器の中で特に手術が難しいと言われる膵臓も、ロボットのおかげで小さな傷で手術することが可能になりました。開腹手術に劣らない緻密性を誇るロボットを駆使して、病気を確実に切除するとともに、トラブルの少ない安心安全な手術を心掛けてまいります」

ロボットによる胃や直腸の切除術に続いて、膵切除術も2020年4月に保険適応となりました。膵切除術には、膵臓の右側を切除する膵頭十二指腸切除術と、左側を切除する膵体尾部切除術があり、当院では2023年7月にロボット支援による膵体尾部切除術を開始いたしました。ロボット支援による膵体尾部切除術の対象とする疾患は、開始当初は膵臓の左半分にできた良性腫瘍や神経内分泌腫瘍としておりましたが、現在は膵癌を含む悪性腫瘍へと対象を拡大してきております。

膵体尾部切除に対するロボット手術ならではの特徴を教えてください。
従来の開腹手術に比べると圧倒的に小さな傷で手術を行うことができ、術後の傷の痛みも軽く、傷の目立ちにくさ(整容性)にも優れています。腹腔鏡手術と比べると、腹腔鏡では直線的な器具(鉗子)しか使用できないのに対して、ロボットのアームには複数の関節が備わっており、術者の指の動きに合わせて自由な角度に曲げて操作することができます。このため、腹腔鏡では難しかった、組織を糸で縫合して縛る作業などが、開腹手術と同等の自由度と正確さで行うことができます。言い換えると、ロボット手術によって、腹腔鏡と同じ小さな傷で、開腹手術に匹敵する正確な手術ができるようになったのです。腹部の臓器の中でも特に難度が高いと言われる膵臓の手術を小さな傷でできるようになったという点で、患者さんにとってメリットが非常に大きいと思います。
ロボット手術の外科の治療体制や取り組みについて教えてください。
厚生労働省と日本内視鏡外科学会がそれぞれ定める厳格な術者基準および施設基準を満たしたうえで、ロボットによる膵体尾部切除術をおこなっています。当科は上部消化管(胃・食道)、下部消化管(大腸)、肝胆膵という臓器別の3チームに分かれており、ロボットによる膵切除術は肝胆膵チームが担当しています。手術の執刀は日本肝胆膵外科学会高度技能専門医資格を有する術者が担当し、同様に肝胆膵外科を専門とする医師が助手を務めます。手術の前後では外科スタッフ全員でカンファレンスをおこなって、手術の術式や安全性などについて、詳細に検討をしています。
最後にメッセージをお願いします。
私が医師として働き始めた平成12年当時、肝胆膵領域の外科手術は、胆嚢を摘出する腹腔鏡手術以外、すべて開腹手術でした。以後手術器具が進歩するに従って、肝臓の手術や膵臓の手術で徐々に腹腔鏡が使用され始め、いまやロボット手術が主流となりつつあります。手術ロボットの開発は、われわれ外科医にとってまさに革命とも言えるほどのインパクトがありました。ロボット手術による傷が小さいことは患者さんにとって大きなメリットではありますが、それよりも大事なことは、病気を確実に治す、ということです。ロボットの機能を駆使すれば、これまで外科医が自分の手で作業していたのと同等の正確さで手術を完遂できます。ロボット手術の時代が到来したとはいえ、今後もわれわれ外科医は、病気を治すための腕をより一層磨いてゆきたいと思います。
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外科 樅山 将士|外科医長
外科 樅山 将士 外科医長
2002年横浜市立大学医学部卒業。横須賀共済病院、藤沢市民病院などで勤務し、米国カリフォルニア大学へ留学。がんの基礎研究に従事。横浜市立大学附属病院を経て現職。専門は大腸外科。日本消化器外科学会消化器外科専門医。
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「繊細な手技が要求される直腸がんの手術ですが、360度回転するロボットアームで他の臓器を傷つけずに処置できる可能性が高まります。定期的な内視鏡検査で早期発見・早期治療をめざしましょう」

消化器疾患において高い専門性を備える外科では、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がんを対象にロボット手術を実施しています。私は下部消化管が専門ですので、結腸がんと直腸がんをロボットで手術しています。
腹腔鏡下手術と比べたロボット手術のメリットは、アームがお腹の中で自在に曲げられるので、他の臓器に囲まれた結腸や直腸の手術においても、不必要な部分を傷つけることなく、より繊細な手術が可能になります。傷口が小さいため臓器が乾燥によるダメージを受けにくく、手術部位感染や合併症を引き起こす確率も下がります。また直腸がんの手術では、肛門が温存できる可能性が高まることに加えて、神経損傷のリスクが大幅に軽減され、術後の排尿障害を抑えられることにあります。

ロボット手術ならではの特徴を教えてください。
外科の消化器分野では、開腹手術から腹腔鏡手術やロボット手術が主流になりました。腹腔鏡手術とロボット手術は、開腹手術に比べると、傷が小さく、臓器が乾燥によるダメージを受けにくいため、回復が早いと言われています。
また、手術部位感染の確率も下げることができます。そしてロボット手術は腹腔鏡手術と比べて、より繊細な手技が可能です。結腸がんにおいては、多数の血管が複雑に絡み合う横行結腸の手術、また膵臓、脾臓、腎臓に囲まれた下行結腸の手術において威力を発揮します。直腸は大事な神経や臓器に囲まれています。ロボットのアームは、腸に沿わせたり、前立腺と直腸の間を剥がしたりする際に、お腹の中で適切な角度で曲げられるので、いろいろな臓器への傷を最小限に防ぎながら、狭い骨盤のさらに奥へ届くため、機能を温存できる可能性が高まります。そのため、直腸がんの手術においては肛門を温存できる可能性が高まりますし、また神経損傷が少なく、排尿障害などの合併症が抑えられると期待されています。
ロボット手術の治療体制や取り組みについて教えてください。
当科には、私を含めて、日本内視鏡外科学会をはじめ、さまざまな学会の技術認定医や専門医資格を持っている医師が複数います。専門性が高い医師がそろっていることで、ロボット手術を含め、あらゆる治療に対応できますし、救急疾患にも24時間365日対応しています。
また、術後のケアとして、週に1回、外科部長の回診がありますが、外科医師、看護師、薬剤師、作業療法士や理学療法士のリハビリテーションスタッフが参加し、多職種で回診を行っています。経過が長い患者さんや転院される患者さんには、カンファレンスを行うなど、サポート体制も充実しています。
最後にメッセージをお願いします。
結腸がんと直腸がんは、比較的治る見込みの高いがんと言えるようになってきました。早期に発見し、早期に治療をするためにも、内視鏡検査や健診を活用していただきたいです。
ロボット手術は夢があると感じています。手術する側からすれば、自分が患者さんの中に入って手術をしているような没入感がありますし、アームも思い通りに動くので、自分の手で直接やっているような感覚です。これは開腹手術と腹腔鏡手術の良いところかけ合わせた感じになっています。この感覚をできるだけ多くの医師にロボットを触ってもらって感じてほしいと思っております。
また、手術を受ける患者さんにとっても先に述べたように、ロボット手術では多くのメリットがございます。できるだけ多くの患者さんにそのメリットを享受していただけるように努めてまいります。
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外科 田中 求|外科医長
外科 田中 求 外科医長
2005年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院などでの勤務を経て2022年より現職。専門は、ロボット支援下手術、食道がん・胃がんに対する低侵襲手術。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。
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「ロボット手術での関節のあるアームと拡大視効果による繊細な操作により、“きずの小さなからだにやさしい手術”を心がけています」

消化器疾患において高い専門性を備える外科では、食道がん、胃がん、直腸がんを対象にロボット支援手術を実施しています。私が専門としている胃がんと食道がんに対する手術のうち、ロボット支援手術のメリットは、関節のあるアームと拡大視効果によって細い血管や細い神経を1本1本ていねいに処理することができ、取ってこなければならない組織と残してこなければならない組織の間を切ったり、はがしたりする際にも、からだに残してくる臓器にもおおきなダメージをあたえることなく操作ができる可能性が非常に高まることだと考えています。食道がんでは、反回神経といって、発声や嚥下(飲み込み)機能を司る神経の周囲にリンパ節転移をきたしてくることがありますが、反回神経を繊細に扱って温存できるのもロボット支援手術の強みと考えています。
また、胃がんの手術の場合では、すい臓に接しているリンパ節を一緒にとる必要がありますが、ロボット支援手術では、関節機能をもちいた繊細な操作によりすい臓にほとんどダメージをあたえずに取ることも可能です。胃がんに対するロボット支援手術の場合、直近の報告では、腹腔鏡手術と比較して出血量がより少なく、入院期間もより短く、合併症も軽減されることが分かっています。

ロボット手術ならではの特徴を教えてください。
ロボットアームに関節機能と手ブレ防止機能がついていること、これまでのアプローチよりも近接して拡大した3D視野でからだの構造をみることが可能となり、まるで患者さんのからだを透視しているような感覚で安定した手術ができるところです。
ロボット手術の治療体制や取り組みについて教えてください。
当科には“きずの小さな手術”を専門としている医師が複数在籍しており、日本内視鏡外科学会の資格のほか、さまざまな専門医資格をもっており、どの臓器においても専門性の高い医療を受けることが可能です。
ロボット支援手術についてはプロクターといってロボット支援手術を指導する資格を持つ医師も在籍しており、患者さんにも安心してロボット支援手術を受けていただくことが出来ます。
また、当院の強みは他職種との連携、チーム医療であり、ロボット手術の術前、術中、術後と医師、看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士、栄養士が力を合わせて弾力的にサポートを行うことにより、患者さんやご家族が安心できるような医療を提供しております。
最後にメッセージをお願いします。
自分は、食道がんや胃がんの治療としてはガイドライン上では“きずの小さな手術”が推奨されていない時期から患者さんからの「きずの小さな手術をしてもらいたい」という強いご要望に応えるかたちで、“きずの小さな手術”の適応を早期癌から進行癌へと徐々に拡大してきました。現在では当院で自分が担当する食道がん、胃がんに対する手術の9割以上が、ロボット支援手術を含めた“きずの小さな手術”となっています。
2018年4月以降、さまざまなロボット支援手術を保険診療で受けることができるようになりましたが、現在当院では食道がん、胃がんに対する“きずの小さな手術”のひとつとしてロボット支援手術を積極的におこなっております。当院では、これまで手術歴が複数あるような患者さんに対しても“きずのちいさな手術”を検討して積極的におこなっていますので、是非ご相談ください。
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外科のロボット手術実績

症例数232例
(2018年10月~2023年12月)

ストーマ外来について

手術などによって排泄口(ストーマ)を増設された方、増設を予定している方、
ご家族の方を対象にストーマ外来で相談を受けています。

安心の治療・サポート体制

当院では、先進設備をそろえ、豊富な診療実績を誇る医師・スタッフの連携により、早期発見に力を入れた低侵襲な治療を実践しています。急性期治療やがん治療で専門的な医療を提供すると同時に、入退院のサポート体制を整え、地域の病院やクリニックと協力しながら地域医療を支える役割を担っています。

  • 早期発見・低侵襲治療
    早期発見・低侵襲治療
    充実した設備による検査や画像診断、複数の病理医の常勤体制により早期発見を目指すとともに、患者さんの体への負担が少ない治療の実践で、早期退院に向けた取り組みにも力を入れています。
    詳しくはこちら
  • 地域がん診療 連携拠点病院
    地域がん診療
    連携拠点病院
    東京都から地域がん診療連携拠点病院の一つに指定されている当院。質の高いがん治療を提供する病院として、地域の病院やクリニックと連携して相互の機能を補完し合い、地域医療を向上させる役割を担っています。
    詳しくはこちら
  • 入退院サポート
    入退院サポート
    患者さんやご家族が安心して入院治療に専念できるように、専門スタッフが入院前からご相談に応じ、スムーズな検査・治療へとつなげます。退院後の生活を見据えたサポートを提供する体制です。
    詳しくはこちら

内視鏡手術支援ロボットのご紹介

ダ・ヴィンチは、アメリカで開発された最新鋭の内視鏡手術支援ロボットです。ロボット手術では、手術に必要な切開部位が小さく、出血も少ないため、術後の回復が早く、患者さんの負担が少ないことが特徴です。
術者(医師)はサージャンコンソールと呼ばれる部分に着座。3Dモニターに映し出される患者さんの術野の拡大画像を確認しながら手元のハンドルを操作し、遠隔でロボットアームに装着された鉗子やメスを動かします。
ダ・ヴィンチの鉗子は関節構造を持ち、人間の手より大きな可動域と手ぶれ補正機能を備えているため、術者は自らの手を動かしているような感覚で、より精緻な手術を行うことが可能です。

ロボット手術の特徴

  • 切開部位が小さい
    切開部位が小さい
    切開部位が小さく、患者さんの体への負担が軽い=低侵襲なことが大きな特徴です。
  • 3Dモニターを通して操作
    3Dモニターを通して操作
    患者さんの術野の3Dハイビジョンが表示され、術者はその映像を見ながら手術します。
  • 精緻な手術
    精緻な手術
    人間の手より大きな可動域と手ぶれ補正機能を備えているため、精緻な手術が可能です。

メリット・デメリット

メリット

全科共通

開腹/開胸手術と比較したメリット

  • 合併症が少ない
  • 出血量が少ない
  • 入院期間が短い
  • 麻薬性鎮痛薬の必要性が少ない
  • 回復が早い
  • 切開部が小さく、瘢痕がほとんど残らない
泌尿器科

開腹手術と比較した
前立腺摘出術におけるメリット

  • がん組織がより正確に摘出できる
  • 神経温存により機能の温存率が向上
  • ・勃起(性的)機能の回復が早い
  • ・尿失禁が回復する可能性が高い
  • 失血量および輸血の必要性が少ない
  • 疼痛が少ない
  • 合併症のリスクが低い
  • 入院期間が短い
  • 手術からの回復および日常活動への復帰が早い
泌尿器科

従来の腹腔鏡下前立腺摘出術と比較した
前立腺摘出術におけるメリット

  • 12カ月後の検査で勃起機能が術前の水準まで回復した患者さんが多い
  • 尿失禁の回復が早い
  • 合併症のリスクが低い
  • 出血量および輸血の必要性が低い
  • 神経損傷のリスクが低い
  • 直腸損傷のリスクが低い
  • 入院期間が短い
  • 再入院およびフォローアップ手術のリスクが低い

デメリット

右記下記に当てはまる患者さんは
ロボット手術が難しい場合があります。

  • 脳動脈瘤や緑内障を患っている方
  • 以前に腹部手術を受けたことがある方
  • 腹部手術での癒着が強い方
  • ※ そのほか患者さん由来の難しい条件がある場合

Q&A

ロボット手術は健康保険で受けられますか? 対象の疾患は?

当センターにおいて、健康保険で受けられるのは腎がん、前立腺がん、膀胱がん、原発性肺がん、転移性肺腫瘍などの肺悪性腫瘍、縦隔腫瘍全般(胸腺腫、神経原性腫瘍など)、重症筋無力症、胃がん、直腸がん、食道がん、結腸がん、すい臓がん(膵体尾部切除)、咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)、喉頭がんのロボット手術です。

ロボット手術の具体的な金額は? 開腹手術と比べてどうでしょうか?

患者さんの年齢により、負担割合が異なります。開腹手術と比較しても、負担額は変わりません。

※ 入院の日数などにより変動します。
※ 高額療養費制度を利用すると所得に応じて実際の負担額は減額されます。

前立腺がんのロボット手術の場合 (前立腺全摘手術、入院8日を想定)

70歳以上

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対象者 医療費用負担額 高額療養費制度 実際の窓口負担額
現役並み所得者 課税所得690万円以上 約495,000円 約 261,000円
課税所得380万円以上 約 180,000円
課税所得145万円以上 約 95,000円
一般 課税所得145万円以下
  • 2割負担
    約 330,000円
  • 1割負担
    約 165,000円
57,600円
低所得者 住民税非課税(低所得Ⅱ) 24,600円
住民税非課税(低所得Ⅰ) 15,000円
70歳未満

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対象者 医療費用負担額 高額療養費制度 実際の窓口負担額
年収約1,160万円以上 約495,000円 約 261,000円
年収約770万円〜1,160万円 約 180,000円
年収約370万円〜770万円 約 95,000円
年収約370万円以下 57,600円
住民税非課税 35,400円

※1 低所得者Ⅱ
世帯員全員が①市町村民税非課税者、又は②生活保護法の要介護者であって、
自己負担限度額・食事標準負担額の減額により保護が必要でなくなる者

※2 低所得者Ⅰ
世帯員全員が「低所得者Ⅱ」に該当し、さらにその世帯所得が一定基準以下

保険適用外の手術の費用については、担当医に確認してください。

ロボット手術を受けるにはどうすれば良いでしょうか?

外来受診時にご要望をお伝えください。ただし、患者さんの状態や症状、手術経歴によっては、ロボット手術を受けられない場合がございます。患者さんにとって最適な治療方法を提案させていただきます。

ロボット手術に不安がありますが、相談はできますか?

可能です。不安があれば外来の医師、看護師に何でもご相談ください。

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