整形外科

(1)概要

整形外科は、体を動かすために必要な器官のうち、脳を除く「運動器」に対する診療を行う専門分野です。運動器は骨、関節、筋肉、軟骨、神経などの組織からなっています。運動器の障害により、移動機能の低下をきたした状態は、ロコモティブシンドローム(ロコモ)と呼ばれます。

【手外科】

「手外科」、または「手の外科」は一般の方の認知度はまだまだ低い分野ですが、運動器の中ではもっとも緻密で鋭敏な手の問題を担当するさらに専門性の高い分野です。手外科は整形外科と形成外科の専門医によって担当され、60年以上の伝統を有する「日本手外科学会」が研究の中心となっています。手外科を担当する医師はこの学会に所属し、経験を積めば学会の専門医として登録されています。

【脊椎・脊髄】

脊椎・脊髄病疾患全般に対する診療を行っています。全国的にも患者数の多い頸椎症や腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症をはじめ、骨折、変形(側弯症など)、外傷、感染症、悪性腫瘍など、脊椎・脊髄に関わるほぼ全ての疾患が対象です。小児から高齢者まで、幅広い年齢層の方を診療しています。

【関節】

主に変形性股関節症、変形性膝関節症、大腿骨骨頭壊死、関節リウマチなどに対する人工関節置換術を行っています。近年、インプラントの改良によって人工関節の耐久年数が長くなっていることから、高齢者に限らず若年者に対しても人工関節置換術を実施しています。

(2)ポリシー

正確な身体診察によって、機能再建を図る

整形外科は運動器の機能を回復させることを最大の目標とします。それには、正確な機能的診断が大切です。たとえば、指が曲がらない原因の診断には骨、関節、筋肉、軟骨、神経など、どの組織に問題があるのかを見極めなければなりません。そのためには専門的知識に基づいた身体診察が必要不可欠です。運動器疾患は、画像だけで正確な診断を行うことはできません。われわれは、これまでの経験とトレーニングで培われた診断技術を駆使して運動機能の回復をはかります。

(3)整形外科の特徴

高品質のデパートであり続ける

人間の体は、全ての運動器がきちんと機能することでスムーズに動くことができます。そして、それらは単独ではなく、全てつながって機能しています。そのため、診療を行う際には症状がある部分だけをみるのではなく、全身をみることが大切です。
当院の整形外科では、ほぼ全ての整形外科疾患を扱っているため、総合的な治療から専門治療までをトータルに行うことが可能です。また、複数の整形外科疾患を抱えている患者さんに対しても、チーム間で連携を図りながら治療を行っています。一方、当院の整形外科は、「関節」「脊椎・脊髄」「手外科」と3つのチームに分かれ、それぞれが専門性を持ちながら診療にあたっています。近年問題となっているがんロコモ(がんの影響による運動機能の低下)の診療にも積極的に取り組んでいます。
また、整形外科の患者さんには、心臓・肺・腎臓などほかの臓器にも複数の疾患を抱えている高齢者が多くいます。当院には多くの診療科がそろっているため、このような患者さんに対して入院中も治療を継続して行うことが可能です。循環器内科と脳神経外科では24時間対応可能なので、急変時にも迅速な対応を行うことができます。
低品質のデパートは新進の専門店に駆逐されますが、高品質のデパートは今後も存在価値があり、当科はそれを目指します。


【手外科】

(1)手外科チームのポリシー

専門的知識と技術を総動員して治療にあたる

手は非常に巧妙かつ複雑な動きをするうえに、一つひとつの組織がとても細かい特殊な器官です。そのため、手外科疾患の治療は、解剖学的な知識や細かい技術が必要不可欠であり、高い専門性が要求されます。私たちは、手外科疾患における経験の蓄積によって、専門的知識と技術を総動員して治療にあたります。

(2)特徴

全ての手外科疾患に対応

手外科チームでは、手外科に関する全ての疾患に対応しています。神経や血管をつないだり、組織を移植したりする際には、マイクロサージャリーという技術を駆使して手術を行います。
また手の疾患は、術後のリハビリテーションの方法によって症状の改善度を大きく左右するため、専門的なリハビリテーションを実施しています。

経験の蓄積によって難しい治療も対応

私たちは手外科疾患の診断・治療に対するこれまでの経験をもとに治療を行います。連携体制にある東京大学医学部附属病院 整形外科手外科診療班で培ってきた複雑な症例に対する診療経験を活かして、難しい治療も積極的に行っています。

(3)受診される方へ

「指が伸びない」、「指が曲がらない」、「親指の根元が痛い」、「手のしこり」、「手首の骨折は治ったけど調子が悪い」、「手首の捻挫が治らない」などは手外科医の診察でその原因を見極め、適切な治療を行ってまいります。また一般の整形外科で「原因がわからない」、「仕方がない」と言われた場合でも解決できるかも知れません。紹介状・画像持参の上ご相談ください。

【脊椎・脊髄】

(1)脊椎・脊髄チームのポリシー

「患者ファースト(第一)」で診療にあたる

私たちは、患者さんの症状を確実に取り除くことを目指して、日々の診療にあたっています。それと同時に、手術による合併症などが起きないよう、安全性の高い手術を心がけています。
当院では国際的な医療機能評価であるJCI(Joint Commission International)を取得しており、医療の質と安全性において国際的な水準を満たしていることが認められていますが、脊椎手術においても、JCIの基準を満たすよう改良を加えてきました。これからも「患者ファースト(第一)」をポリシーに、安全かつ確実な治療を行うことを目指していきます。

(2)特徴

ペインクリニック科との連携

患者さんによっては、手術治療を行っても全ての痛みを取り除くことが難しい場合があります。私たちは、ペインクリニック科と密な連携を取ることで、痛みに対する治療に積極的に取り組んでいます。また、一人ひとりの患者さんに適した治療法を検討するために、定期的に合同でカンファレンスを実施しています。

土日休日もリハビリテーションを行う

術後、早期に日常生活へ復帰するためには、しっかりとリハビリテーションを行う必要があります。特に脊椎脊髄疾患の場合、もともと下肢の筋力が低下している方が多いため、術後は濃厚な筋力強化訓練・歩行訓練を行う必要があります。そのため、当院では平日だけでなく土日休日もリハビリテーションを行うことで、術後の運動機能回復に努めています。

(3)受診される方へ

現在、他院で脊椎・脊髄疾患に対する治療を行っている方でなかなか症状(肩から手にかけてしびれる、お尻から足にかけて痛い、足に力が入らない、お小水が出しにくい、肛門の周りの感覚がおかしい、など)が改善しない場合には、紹介状・画像持参の上ご相談ください。
手術で症状が改善する場合もあれば、患者さんによってはペインクリニック科での治療やリハビリテーションなどの保存治療が適している場合もあります。幅広い選択肢からそれぞれの患者さんに適した治療法について一緒に考えていきたいと思います。

【関節】

(1)関節チームのポリシー

安全・確実な治療を目指す

私たちが主に行っている人工関節置換術では、人工関節をいかに正しい位置に挿入するかによって耐久性が左右されます。そのため、術前計画をしっかりと立てたうえで、それを正確に再現することが非常に重要です。
また、患者さんの既往歴などから合併症のリスク評価を行い、必要に応じて他診療科との連携を図りながら治療にあたっています。

(2)特徴

標準治療に則った確実性の高い手術

関節チームでは、際立って何か特別な治療を行うのでなく、確実性の高い手術を行うために標準治療をしっかりと行っていくことを心がけています。術前は、3Dコンピューターシミュレーションを用いた人工関節の位置決めなど、綿密な術前計画を立てます。術中は、それを忠実に再現するために、器具がどの位置にあるかをリアルタイムで確認できるポータブルナビゲーションシステムを使用しています。
人工関節を安心して長期間使用していただくためにも、標準的な治療をきちんと行うことが、もっとも重要だと考えています。

東京大学医学部附属病院との連携体制

当院の整形外科は、東京大学医学部附属病院 整形外科と連携体制をとっています。定期的な勉強会や情報交換会を行い、常に新しい知識や技術にアップデートしています。また、難しい症例の手術の際には応援の医師を要請することもあります。

(3)受診される方へ

膝や股関節に痛みや動かしにくさなどの症状がある方は、当科へご連絡ください。そして、私たちと直接話をしたうえで、それぞれの方に適した治療方法を探っていければと思います。
また、現在当科を受診されている患者さんで、治療においてわからないことや不安に思っていることがあれば、紹介状・画像持参の上ご相談ください。

部長 山田 高嗣