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人工関節センター

人工関節センター

当院整形外科では股関節、膝関節、肩関節の人工関節置換手術を人工関節センターとして専門的に行っています。
現在、年間約150例の人工関節置換手術を行っています。
治療実績にもとづいた安全で体への負担の少ない治療に努めています。
海外では人工関節置換手術の登録制度が行われ、長期的な結果について詳細な報告がされています。
当科ではこれらの報告をもとにして、長期的な結果が優れた治療を行うことを最も優先しています。それぞれの方に質が高いと感じていただけるような包括的な治療を心がけています。

人工股関節置換手術

人工股関節置換手術は傷んでしまった股関節を人工の関節にとり替える手術です。
人工股関節は大腿コンポーネントと臼蓋(骨盤)コンポーネントからなります。これらには生体適合性の高いチタン合金、セラミック、ポリエチレン(プラスチック)などの素材が用いられています。
大腿コンポーネントのボールと、臼蓋(骨盤)コンポーネントのソケットの間で動く構造になっています。
人工股関節置換手術は、変形性関節症や他の股関節疾患のために強い痛みがあり、リハビリテーションや薬などの治療ではよくならない場合に適した治療法です。
人工股関節置換手術は股関節の痛みを軽くする効果が高く、年間数万人の方が手術を受けられています。

手術後の生活

股関節の痛みが軽くなって活動的な生活ができるようになります。体力が回復すれば、サイクリング、ゴルフやハイキングなどの適度な運動もできるようになります。人工関節を長く使うためにはジョギングやコンタクトスポーツなどの股関節に強い衝撃がかかる運動は勧められません。

人工関節の耐久性

新しい技術や素材が開発されて、人工関節の耐久性は向上しています。手術後、20年では約90%の方が人工関節をそのまま使い続けられています。人工関節が摩耗したり、人工関節と骨の間がゆるんだ場合は、人工関節を入れ替える再置換手術が必要になることがあります。

手術の準備

手術日が決まると、3–4週間前から準備を始めます。

健康診断
手術を安全に受けられることを確認するために、血液・尿検査、心電図、胸部レントゲンなどの検査をします。検査結果によって、さらに詳しい検査を受けていただいたり、他の診療科を受診していただいたりすることがあります。

併存症と薬
治療中の病気や服用されている薬を確認します。薬の種類によっては、手術前に休止したり、用量を調節したりする必要があります。

自己血貯血
手術による出血のために、輸血が必要になる場合があります。輸血には同種血輸血(日赤血による輸血)と自己血輸血の2つの方法があります。自己血輸血は、1–2週間前にご自分の血液をあらかじめ採血しておいて、手術の時にそれを輸血する方法です。貧血などのために、自己血輸血ができない場合もあります。

入院中の経過

入院期間は10日から14日です。杖を使って歩けるようになることが目標です。

手術
手術当日は病室から手術室に行きます。麻酔科医師が麻酔と手術中の全身管理を行います。手術時間は1時間くらいです。手術後は、全身状態が安定していることを確認して病室に戻ります。

痛み
手術後は痛みをできるだけ抑えます。痛みの強さに応じて鎮痛剤の量を調節できる機器などを使います。

手術の創
手術後4-5日たって、創が乾いた状態になるとシャワーができます。

リハビリテーション
理学療法士が股関節の運動や日常生活動作の練習を指導します。平行棒につかまって歩く練習を始めます。通常、1週間くらいで杖を使って歩けるようになります。リハビリテーションの進みかたには個人差があります。

手術の合併症

感染(化膿)
手術創部の深部感染が起きる率は約1%です。深部感染が起きた場合は、治療に長い期間が必要になります。また再手術が必要になることもあります。

深部静脈血栓症・肺塞栓症
手術後に下肢の静脈に血液の塊(血栓)ができてしまい、足が腫れたり痛んだりすることがあります(深部静脈血栓症)。稀に血栓が血管の中を移動して、肺の血管に詰まってしまうことがあります(肺塞栓症)。重症の肺塞栓症では死亡する可能性もあります。血栓症の予防のために、下肢を間欠的に圧迫する器械や、血液を少し固まりにくくする薬(抗凝固薬)を使います。

人工関節の脱臼
無理な姿勢をすると人工関節のボールがソケットからはずれて脱臼してしまうことがあります。 脱臼が起きる率は数%です。脱臼の危険性が特に高いのは手術後1ヶ月間くらいです。術後一定期間経過し筋力が回復すれば、日常生活の中で特に動作を制限する必要はありません。

人工膝関節全置換手術

人工膝関節置換手術について

人工膝関節手術は、関節疾患に対して1980年代になって世界的に広く行われるようになり、その後人工関節に用いられる新素材の開発や手術方法の改良によって世界中で手術が行われています。日本でも※年間10万件以上が行われる一般的な治療法です。人工膝関節置換術は変形性膝関節症、慢性関節リウマチなどの疾患による膝関節の障害の治療に行われ、関節の痛みを軽減させ、歩きやすくし、生活の質の改善が見込めます。全置換型人工膝関節(TKA:Total Knee Arthroplasty)(写真―1)と部分置換型人工膝関節(UKA:UnicompartmentalUni Knee Arthroplasty)(写真―2)があります。TKAは、膝関節を構成する大腿骨と下腿骨の両方と膝蓋骨の関節面を人工のコンポーネントに取り換える手術です。大腿骨と下腿骨の関節面をチタンやコバルト・クロム合金などの強靭な金属やセラミックで取り換え、下腿骨側にポリエチレン製のコンポーネントを装着します。UKAは大腿骨と下腿骨の内側のみを取り換えます。

※2018年3月現在
一般社団法人 日本人工関節学会による人工関節登録調査集計
「TKA/UKA/PFA人工関節登録調査集計2006年2月~2018年3月」

【写真1】

【写真2】

当科の人工膝関節全置換手術(TKA)について

MIS(mini invasive 微少侵襲手術)の技術を使って手術を行います。膝の正面を10cmから15cm程度縦に切開し、変形した部分を人工関節に取り替えます。手術時間は1時間半程度です。体格がよかったり、変形が強かったりすると、皮膚切開が長くなったり、手術時間がさらにかかる場合もあります。順調に手術が進めば、皮膚切開が10cm程度ですみ、1時間以内に手術が終了します。膝の変形が強かったり、合併症があったりすると皮膚切開が15cm程度に長くなったり、手術時間が2時間以上かかることがあります。手術時間とは麻酔がかかって安定し、消毒などの準備が終わった後に、皮膚に切開をしてから皮膚を縫合するまでの時間です。その前後に麻酔を導入し、麻酔が安定し、機械を揃える時間が必要です。手術後は麻酔が覚醒し安定するまで手術室で様子を見ます。当科で主に使用する機種は、日本の厚生労働省の認可はもちろんですが、アメリカの厚生労働省にあたるFDAの認可を得た機種を選択しています。FDAの認可基準は世界で最も厳しい基準のひとつです。日欧米で安定した成績を残している標準的な機種を選んでいます(写真―1)。日本式の生活に合わせた深屈曲対応型も開発され、当科も使用しています。

当科の人工膝部分置換型手術(UKA)について

UKAの適応は、薬や足底板などの保存治療に効果がなく、TKAを適応するほど軟骨や靭帯が傷んでいない場合です。膝関節の内側のみをMISの技術を使って置換します。

同時両側手術について

左右どちらとも変形が強く、障害が著しい場合、1回の手術で両側の人工膝関節置換術を行う場合があります。片側のみ行い、再度反対側を行う場合もありますが、片側だけ膝の変形が矯正され、反対側がそのままなので脚の長さが異なるため、脚長差が生じてリハビリが進みにくい場合があります。このような時両側同時に行うとリハビリが順調に進みます。もちろん片側ずつのご希望であれば、時期をずらして2回に分けて手術を行うことも可能です。両側同時に行う場合、侵襲が大きくなり、体への負担が強いられますので、合併症や年齢、体力を考慮して手術するかどうかを判断する必要があります。

ゆるみと再置換手術について

TKAは成績の安定した手術です。ほとんどの場合、長期間にわたって、膝の痛みが軽くなり、歩行が楽になります。ただし膝の曲がりについては、最新の深屈曲対応型でも正座が難しい場合があります。人工関節の性能が向上し、設計上深屈曲が可能でも、膝関節周囲の筋肉や腱などの軟部組織が衰えて、正座に耐えられなかったりするからです。またリハビリをあまりやらないと曲がらないうちに固まってしまうこともあります。人工関節は時間がたつと骨と金属との間でゆるんでくる場合があります。現在では技術の進歩と素材の開発により、人工関節自体は、手術後10年程度問題がないように設計され、さらに長期間20年から30年機能するようになってきています。しかしリウマチのような骨破壊が進行する病気を伴えば、長期の耐久性はこの限りではありません。

手術の準備について

手術を受けることを決められたら、手術の準備を次のように行います。

【全身状態の評価】
手術を受けることが可能かどうか調べるために、手術予定日の4週間以内に術前検査を行います。血液・尿検査、心電図、胸部レントゲンなどの検査を行います。検査に異常があれば手術を行うことが可能かどうか調べるため、さらに詳しい検査や専門医を受診して頂くことになります。

【併存症と処方】
当院以外で治療中の病気がある場合は、その病名や治療、処方薬などの情報を、受診されている医師に確認してください。薬剤の当院以外で治療中の病気がある場合は、その病名や治療、処方薬などの情報を、受診されている医師に確認してください。薬剤の中には、手術前にあらかじめ休薬したり、投薬量を調節する必要なものがあります。

【自己血貯血】
通常は自己血貯血はおこなわずとも、輸血は必要ない場合こともあります。術後出血が多くなり貧血が進行する場合は同種血輸血(日赤血による輸血)で対応します。安心のため、希望される場合は自己血貯血を行います。

合併症と危険性について

TKAは決して小さな手術ではありませんが、現在では、十分に安全な手術となっています。それでも感染(化膿)、静脈血栓症、肺梗塞、肺塞栓、人工関節の脱臼などの起こり得る合併症や危険性について知っておくことは大切です。

  1. 人工関節は感染(化膿)がおきると、治るのに長期間の治療を要する場合が多く、感染を起こさないように細心の注意を払います。手術で切開した部分に感染がおきないよう、無菌手術室で行い、予防的に抗生剤を用いて対処します。
    また人工関節手術後、虫歯や水虫などを放置しておくと、感染部位から人工関節へ感染が波及する場合がありますので、できるだけ早期の治療をお勧めします。
  2. 静脈血管内に血の塊ができることがあります。血栓症といいますが、手術後、足の裏を断続的に圧迫する器械を装着し、血栓形成を予防します。手術した部位からの出血が止まったら、保険適応となっている血栓予防薬を使用します。弾性ストッキングも使います。血栓ができると、血栓が血行性に体内を移動して、肺梗塞や肺塞栓をおこすことがあります。肺梗塞や肺塞栓がおきると重症化する場合が多いのですが、幸い当院の人工膝関節手術で肺梗塞 肺塞栓で重症化したことはありません。万一肺塞栓が起きた場合は、総合診療科 循環器内科 呼吸器・肺外科がありますので、連携対応して治療にあたります。

手術後の経過について

手術の傷は通常2週間くらいで治ります。手術直後2日から3日は傷の痛みも強いですが、持続的に痛み止めを注入する器械で痛みを緩和します。術後は、CPMという器械で膝の曲げ伸ばしを行い、理学療法士が、筋力をつけ、膝を曲げるリハビリを行います。膝の状態が良くなってくると立ち上がりや歩行練習も行い、手術後2週から3週間位の入院で杖を使い歩いて、退院可能になります。両側同時に行った場合は、手術後3週から4週間の入院で杖を使って歩いて、退院できるようになります。片側のみに比べて1週間程度入院が長くなります。手術後杖を使って歩くのが4週間以上かかる場合や、杖歩行ができるようになっても更にリハビリを希望される場合はリハビリ病院に転院してリハビリを行う場合もあります。

退院後の生活について

段々に日常生活に慣らしていきます。馴染んでくるのに3ヶ月から6ヶ月くらいかかります。従来の機種では膝をつくことが難しい場合もありましたが、深屈曲対応型では膝をつくこともできるようになってきています。
人工関節はあくまでも「人工の」関節ですから痛みがとれたからといって、激しい衝撃を加えるような乱暴な動きをすると早くいためてしまい、ゆるみの原因となります。

費用について

人工膝関節手術にかかる費用は、健康保険や介護保険を使い、老人医療やその他の諸制度の活用で負担軽減が可能な場合があります。当院総合相談室でソーシャルワーカーがどのような制度が利用可能かどうか調べて対応致します。諸制度の手続きをせずに健康保険を使うと、保険自己負担分の1割もしくは3割となりますが、 高額療養費制度医療費の利用申請を行うことにより、収入に応じた自己負担となります。

Reverse型人工肩関節置換手術

腱板とは4つの筋から構成され、不安定な関節である肩関節を内部から安定させているため世間ではインナーマッスルと呼ばれており、肩関節を内部から安定させています。一方アウターマッスルと呼ばれているのが三角筋で、こちらは肩関節の動力として働きますが、腱板が正常に機能している条件下でその役割を発揮します(図1、2)。腱板が断裂し、断裂サイズが大きくなると肩を挙上できなくなり、症状改善には手術による肩関節機能再建が必要になります。Reverse型人工肩関節置換術は腱板がなくても、肩関節機能を回復させることができる手術で日本では2014年から行うことができるようになりました。当院でも2019年から導入しております。以下にその手術方法をお示し致します。

図1、2

 適応;腱板断裂サイズが大きく修復不能の腱板断裂が手術適応です。断裂サイズが大きくなると求心位が取れなくなり、上肢の挙上が出来なくなる場合があります。そのようなケースに最も良い適応です。

手術法

肩関節はボールとソケットの関係性で成り立ってますがその関係性をひっくり返した人工関節のためReverse型人工肩関節置換術といわれております。図3が通常の人工肩関節置換術です。図4がReverse型人工肩関節置換術です。ひっくり返すことで肩関節の安定性を高め、腱板がなくてもアウターマッスルである三角筋の力だけで挙上可能となります。皮膚切開は肩前面に約10cmで手術時間は1時間30分程度です。輸血が必要になることはほとんどありません。

【図3】

【図4】

手術後の生活

術後はリハビリにより可動域を確保します。術後約3か月でジョギング、ゴルフやハイキングなどの適度な運動もできるようになります。人工関節には耐久年数があるため、長く使うためには強い衝撃がかかる運動は勧められません。

人工関節の耐久性

新しい技術や素材が開発されて、人工関節の耐久性は向上しています。人工関節が摩耗したり、人工関節と骨の間がゆるんだ場合は、人工関節を入れ替える再置換手術が必要になることがあります。

入院中の経過

入院期間7日から10日です。術後装具を装着しますので、一人暮らしの方は装具が外れるまで(約3週間程度)入院することも可能です。

手術
手術当日は病室から手術室に行きます。麻酔科医師が麻酔と手術中の全身管理を行います。手術時間は1時間30分くらいです。手術後は、全身状態が安定していることを確認して病室に戻ります。

痛み
手術後は痛みをできるだけ抑えます。神経ブロック注射や内服、点滴により疼痛コントロールを致します。

手術の創
手術後3-4日経って、創が乾いた状態になるとシャワーができます。

リハビリテーション
理学療法士が肩関節の運動や日常生活動作の練習を指導します。リハビリテーションの進行具合には個人差があります。

手術の合併症

感染(化膿)
手術創部の深部感染が起きる率は約1%です。深部感染が起きた場合は、治療に長い期間が必要になります。また再手術が必要になることもあります。

人工関節の脱臼
無理な姿勢をすると脱臼します。脱臼率は1%程度です。脱臼の危険性が特に高いのは手術後1ヶ月間くらいです。術後一定期間経過し筋力が回復すれば、日常生活の中で特に動作を制限する必要はありません。

骨折
術中や術後に骨折をきたすことがあります。術後早期に患側を使用しすぎると骨折のリスクが増加します。術後3か月は重労働や激しい動作は行わないように注意してください。

当科への受診方法について

当科は予約制となっています。かかりつけ医の紹介状を用意して、診療予約を当院予約センターでおとりください。詳しくは当院ホームページをご参照ください。

センター長 大嶋 浩文