諦めかけた痛みを改善に導く
NTT東日本 関東病院でできる三叉神経痛治療

写真左から:井上智弘(脳神経外科部長)、安部洋一郎(ペインクリニック科部長)、赤羽敦也(ガンマナイフセンター長)

薬が効かなくなってきたら次のステップを考える時期

三叉神経痛でクリニックなどを受診した場合、一般的な治療としては、お薬の内服からスタートすることが多いのでしょうか。

井上:そうですね。三叉神経痛には、痛みがある時期と、痛みをまったく感じない時期があります。このサイクルを繰り返すので、最初は体への負担を抑えるために薬物療法からスタートする場合がほとんどでしょう。脳の過剰な興奮を抑え、てんかんの発作を鎮める抗てんかん薬が三叉神経痛にも効果的であることから、治療の第一選択とされることが多いと思います。

安部:問題は、痛みが引かないからと抗てんかん薬が大量に処方されていること、処方量の増量に伴う副作用で眠気やふらつきが出て転倒するなど、日常生活に影響が出るリスクがあることです。

赤羽:これまでと同じように抗てんかん薬を服用しても症状が抑えられず、薬の量がだんだん増えていくようなら、次のステップに進むタイミングかもしれません。

井上:確かに、薬の量は治療法を考える上で重要な目安になると思います。実は、長く服用してきた抗てんかん薬が効かなくなって手術をした方のうち、服用していた薬の量が多かった方は、手術が成功しても痛みだけが残ってしまう場合があるんです。画像を見ると、痛みを引き起こす原因は確実に除去されているのに、臨床と一致しないケースがしばしばあるわけですね。おそらく、長いこと痛みを薬で抑え込んできたために、根治した現実と感覚が一致しないのでしょう。赤羽部長のおっしゃる通り、お薬の量が多くなり始めたら、他の治療法を検討していただきたいですね。

3つの診療科が適切に連携 個別に最善の治療法を提案

そうした場合に、かかりつけ医などを通して当院を受診されるわけですね。当院では、何科を受診されることが多いのでしょう。

安部:主訴が痛みであればペインクリニック科、MRIで血管や腫瘍による神経の圧迫など明らかな原因が見つかっていれば脳神経外科にご紹介いただくことが多いですね。各診療科でお話を伺って、高齢で手術が難しい、本人が手術を希望していない、内服している薬の関係で神経ブロック治療が行えないといった場合は、院内で連携を取ってガンマナイフ治療を検討するのが一般的な流れです。

赤羽:今お話があった通り、三叉神経痛におけるガンマナイフ治療は、他の診療科の治療では痛みがコントロールできない場合の最終手段として活躍するものです。従来は脳腫瘍や脳血管奇形などを対象として行われてきた治療法ですが、2015年に三叉神経痛に対するガンマナイフ治療が保険適用になり、より身近な治療の選択肢としてご提案できるようになりました。

井上:間口を広くとって苦しんでいる患者さんを受け入れ、多くの選択肢の中から適切な治療法を提案できることが、当院における三叉神経痛治療の最大の特徴ですね。腫瘍があるからと脳神経外科に紹介されてきた方でも、患者さんの生活の質を大きく損なう主訴が「痛み」であれば、神経ブロック治療やガンマナイフ治療を当科からご紹介することもあります。
なるほど。治療の選択肢がそろっていて、各診療科の連携が強固であることは大きな強みですね。

赤羽:一般的に、規模が大きい病院は診療科ごとの縦割り構造であることが多く、どうしても連携が滞りがちです。その点、当院では診療科同士が非常にフラットな関係性なので、気軽に声をかけ合って柔軟に対応しています。

安部:患者さん第一で、できる限りフレキシブルに対応することを心がけていますね。三叉神経痛の痛みは非常に強いので、痛みをとらなければ日常生活すらままならないケースも少なくありません。当院の評判を耳にして「痛みを何とかしてほしい」と来院された場合は、できる限り対応させていただくようにしています。

それぞれの治療の利点と注意点を理解して選択を

各診療科の治療について、詳しく教えていただけますか。

安部:ペインクリニック科では、1976年の開設当初から三叉神経痛の治療に取り組んできました。
主な治療法は、薬剤を注射することで痛みをとる神経ブロック治療です。当初は局所麻酔で痛みを軽減していましたが、効果に持続性がないため、神経破壊薬や高周波の電流で神経を焼灼する治療が用いられるようになりました。これらの治療は1~2年効果が持続する一方、麻痺やしびれを伴います。そこで、高周波電流を42℃以下で流し、神経を破壊せずに痛みをとることで副作用を軽減するパルス高周波法も使用するようになりました。当科では、こうしたすべての治療を高いレベルで行える機器をそろえ、画像診断などをもとに患者さんに合った治療法をご提案しています。

赤羽:ガンマナイフ治療は、放射線の一種であるガンマ線を用いた治療です。もともとは、低侵襲で腫瘍を縮小させる治療法として用いられてきましたが、2015年から薬物治療で疼痛管理が困難な三叉神経痛も保険適用になりました。ガンマナイフは、他の放射線と比べて、治療精度が高いのが最大のメリットです。細い神経に的確にガンマ線を照射することで、疼痛発作の消失が期待できます。副作用のしびれがあることには注意が必要ですが、外科手術ができない方などは積極的に検討していただけたらと思います。

井上:脳神経外科で行っているのは、耳の後ろを少し切開し、三叉神経を圧迫している血管を剥離する根治手術です。薬物療法で改善が見られず、かつ手術に耐え得る年齢の方、腫瘍が原因の方などは、手術で根治をめざすのが望ましいでしょう。当院では、耳の後ろからの治療が難しい腫瘍による圧迫の場合、前側から内耳を削って原因を排除する難易度の高い手術にも対応しています。

痛みを諦めないで生活の質向上をめざそう

ありがとうございました。最後に、三叉神経痛に悩んでいる方にメッセージをお願いいたします。

赤羽:痛みの裏には、必ず何らかの原因があります。検査で別の病気が見つかることもありますから、放置せず必ず医療機関を受診しましょう。三叉神経痛の患者さんの中には、歯科や耳鼻咽喉科を巡っても痛みの原因がわからず、長く苦しんでいた方が少なからずいらっしゃいます。突発的かつ短期的で耐え難い痛みがあるときは、三叉神経痛を疑ってみましょう。当院では、三叉神経痛に対して考え得るすべての治療をそろえ、重篤度や生活スタイルに合わせた治療法をご提案しています。全身麻酔が困難な方、合併症がある方、高齢で手術ができない方などは、ガンマナイフ治療も視野に入れ、かかりつけ医に相談の上、当院をご受診ください。

井上:原因が血管による圧迫であれば、手術によって原因を取り除き、痛みの消失を図ります。痛みが強くなり、薬でコントロールできなくなってきたら、ぜひ外科的手術を検討してください。年齢やお体の状態で手術が困難な場合は、当院内でできる別の治療法を一緒に考え、痛みのない生活の実現に向けて力を尽くしてまいります。

安部:医学の進歩とともに、三叉神経痛の治療も飛躍的な進歩を遂げました。現在のところ有効とされている治療法は、薬物療法、脳神経外科による外科的手術、ガンマナイフ治療、ペインクリニック科による神経ブロック治療の4つです。お一人お一人の希望に沿って、適切で最善の治療を提供してまいりますので、お困りの方はご相談ください。