発症者が年間約29万人を超え、命を取り留めても介護が必要になることが多い脳卒中。一方で、早期に適切な処置ができれば、良好な機能回復と社会復帰につながることもわかってきました。当院では、脳卒中への初期対応を強化すべく、2005年に「脳卒中センター」を開設。万全の受け入れ態勢を敷いています。脳神経外科顕微鏡手術の第一人者として同センターを率いる井上智弘 脳神経外科部長に、具体的な取り組みや強みを聞きました。
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夜間も高い診断能力を維持 即座に適切な治療を選択可能
血管が詰まる「脳梗塞」、血管が破れる「脳出血」、表面の血管にできた動脈瘤が破れてくも膜の下に出血する「くも膜下出血」の3つに大別される「脳卒中」。救急搬送された患者さんの予後を分けるのは、搬送後のスムーズな検査と的確な診断です。脳卒中において、最も重要なのは初期対応であるといっても過言ではありません。急にろれつが回らなくなった、手足にしびれがある、手足に力が入らず動かない、人の名前や言葉が出てこない、これまでにない激しい頭痛がある、といったケースでは速やかに救急車を呼んでください。当院では、24時間365日、近隣の医療機関や救急隊からの救急要請を当院の医師が直接受けつける脳卒中ホットラインを運営。受け入れから診断、緊急手術まで速やかに移行できる体制を整えています。
また、24時間いつでも同じレベルの診断能力を維持できるよう、遠隔画像診断装置を導入。院内のMRIやCTなどの装置と連携させることにより、モバイルデバイスや自宅のパソコンからもリアルタイムで鮮明な検査画像を確認できるので、特に困難な症例や判断に迷う症例はすぐにベテラン医師に共有して指示を仰ぐことができるようになりました。
困難な外科的手術にも付加価値の高い結果で応える
脳卒中は、検査によって適応があると判断された場合、発生から4.5時間以内なら血栓を溶かす薬物を投与する血栓溶解療法(t-PA静注療法)、8時間以内ならカテーテルで血栓を取り除く血栓回収療法が第一に選択されますが、中には薬物療法や血管内治療ではなく外科的手術を選択せざるを得ないケースもあります。脳内の太い動脈にコレステロールがたまってゆっくりと詰まっていく動脈硬化性の脳出血のほか、内頸動脈の終末部が細くなって血流を阻害するもやもや病、脳腫瘍、未破裂脳動脈瘤などがそれにあたります。
私の専門は、こうした症例に対して、頭を開いて処置をする開頭手術です。開頭手術では、狭くなったり詰まったりした血管に、別の健康な血管をつないで新しい血流の通り道を作るバイパス手術を行います。わずか1mmほどの毛管をつなぎ合わせるため、非常に繊細で高度な手技が求められる手術であり、成功には脳神経外科専門医の経験と鍛錬が欠かせないので、日々研鑽を積むことで、一人ひとりに適した医療を提供しています。近隣のクリニックからのご紹介も年々増加しており、2021年度、2022年度のバイパス手術の件数は年間で60件を超えています。
サインに気づいたら迷わず救急車 違和感は近くのかかりつけ医へ
当院周辺には、非常に性能の良いMRIを用いて確実性の高い診断を行う開業医の先生が多く、ちょっとした症状から大きな病変の可能性を見つけて紹介に結びつけてくださることが少なくありません。私たちも、急性期の治療を終えた患者さんや、検査をして経過観察と判断した患者さんはかかりつけ医の先生方にお返しして、急性期、回復期、在宅期と長期にわたる療養生活において適切な医療が受けられるよう、医療連携体制の構築を進めてまいりました。
明らかな異常に気づいたら迷わず救急車を呼んでいただくことが大切ですが、救急車を呼ぶのがためらわれるような「ちょっとした違和感」「いつもと少し違う長引く頭痛」といった症状については、まずは近くのクリニックで相談してみてください。院内の脳神経外科、脳神経内科、リハビリテーション科、放射線科など関係する各診療科はもちろん、地域全体で包括的に治療にあたることで、一人でも多くの患者さんにより良い状態で社会復帰をしていただきたいと思っています。
先生よりメッセージ
急なしびれ、頭痛、脱力などは、「もしかして頭かな?」と疑うべきサイン。緊急時はすぐに救急車を呼びましょう。また、気になる症状が続いているときは、ぜひ近くの脳神経外科を受診してください。早期発見・早期治療で、後遺症を最小限に食い止めましょう。
先生にお話を聞きました!
脳神経外科 部長 井上 智弘
1997年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院の関連病院である会津中央病院、米国メイヨークリニック、富士脳障害研究所附属病院などを経て、2016 年当院着任。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳卒中学会 脳卒中専門医。