血液の病気と聞くと、最初に「白血病」や「再生不良性貧血」を思い浮かべる人は多いでしょう。かつては映画や小説で不治の病として描かれていましたが、治療の進化とともに予後は改善し、今では多くの症例で長期的な生存が望めるようになりました。
血液内科で治療の前線に立つ臼杵憲祐先生、市川幹先生に話を聞きました。
疾患の特性に応じた治療を提供
血液疾患は、どのように治療されるのでしょう。
臼杵:血液疾患と一口に言っても、種類や特性はさまざまです。医師も、どれか一つの疾患を専門的に深掘りするというより、あらゆる疾患の知見を持って総合的に判断していくことが多いですね。治療は、疾患の特性に応じて行われます。
市川:白血病や骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などは、いわゆる血液のがん。がん化した細胞が増殖することで正常な血液細胞が作られなくなり、一部の細胞が増えたり、逆に一部の細胞が減少したりします。一方、再生不良性貧血は血球がうまく作れなくなり、白血球、赤血球、血小板のすべてが減少することによってあざができやすくなったり、貧血症状が出たりします。当院では、これらの疾患に対して集学的治療を実施しています。
臼杵:ほぼすべての血液の病気を診ていますね。ただし、血友病など、出血しやすく血液が止まりにくくなる病気については、都内でほとんどの血友病患者を受け入れて専門的な治療を行っている医療機関にご紹介しています。
患者さんごとに、適切な治療を選べる時代に
近年、血液の病気の治療法が飛躍的に進化していると聞きました。
臼杵:おっしゃる通りです。例えば、一部が白血病に移行する骨髄異形成症候群は、以前は移植以外に助かる道のない難しい病気でした。しかし、2011年にアザシチジンという薬剤ができ、病状の進展を抑えることが期待できるようになったのです。近年注目されている分子標的薬も、もともとは血液がんに対する治療として発展していたもので、抗がん剤治療などとならぶ薬物療法の柱として活用されています。
市川:疾患の成り立ちがある程度わかってきていることは大きいですね。当院は、がん細胞の遺伝子変化を見て治療法を決めるがんゲノム医療も得意としており、患者さんに合った治療法を提供することができます。
難病に苦しむ患者さんには朗報ですね。
市川:一方で、未だ有効な治療法がない疾患があるのも事実です。先ほどの骨髄異形成症候群も、薬剤が効かない場合は移植しか選択肢がなく、移植後再発する人も少なくありません。
臼杵:確立された治療で救える人を確実に救うだけでなく、治療法が確立されていない疾患に対する医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)を満たしていくことも私たちの使命です。セカンドオピニオンや治験を積極的に実施し、最新の治療を受ける機会をたくさんの方に提供していきたいですね。
治療の選択肢を増やすために数多くの治験を実施
血液疾患の治療は日進月歩ですが、現在の標準治療では治すことが難しく、治療法が確立されていない疾患も存在します。こうした疾患に罹患した患者さんに、「現代医療のすい」を集めたともいえる発売前の開発中の新薬を用いた治療を提供するのが「治験」です。今できる治療に粛々と取り組みながら、パラダイムシフトを待ち望んでいる患者さんにとって、治験参加は未来の可能性を広げることを意味します。他院で治療法がないと言われた方のセカンドオピニオンにも積極的に対応し、一人でも多くの患者さんにより良い未来を提供していきたいと考えています。
当院で行っている治験は、治験一覧からご覧ください。
先生にお話を聞きました!
血液内科 部長 臼杵 憲祐
1984年群馬大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、スウェーデンのルードヴィヒ癌研究所を経て、1993年からNTT東日本 関東病院勤務。得意分野は白血病、悪性リンパ腫、化学療法、再生不良性貧血。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。
血液内科 主任医長 市川 幹
1995年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、国立国際医療センター、東京都立駒込病院、湘南東部総合病院、獨協医科大学病院を経て2022年よりNTT東日本 関東病院勤務。得意分野は血液内科一般。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。