ロボティックアームがやってきた!担当医師がその魅力を語る

安全性と正確性を担保に術前計画どおりに治療が進む

これまでの人工股関節置換術とロボティックアームを用いた手術では何が違うのでしょうか?

大嶋:今までの治療ではどんなに三次元のCT画像を駆使した術前計画を立てても、人間がそれを再現するには限界がありました。でもロボティックアーム(Makoシステム)は、リアルタイムのナビゲーションに加えて正確な角度に導いてくれます。そしてすごいのが計画より少しでもずれた位置に作業しようとするとそれを制御してくれること。正確に入らないことはまずないんです。

大江:今までの人工関節手術は、術前にエックス線画像やCTを見て、実際に切ったときの状況を自分の頭と経験、目視と照らし合わせて行っていました。それをもとに正確な位置に人工関節を入れられるのが熟達した医師の技術だったんです。でも、ロボティックアームはリアルタイムで頭脳の代わりをコンピュータが、目視の代わりを赤外線のセンサーが担い、ロボティックアームの先に取りつけた人工関節を計画した通りに設置してくれます。汎用性ヒト型ロボットに近いですね。

大嶋:そうですね、まさにロボットになった気分です。

大江:手術中の位置と術前計画での位置がシンクロしているので、どこを削っているかがわかるのも優れた点です。硬さや進む感覚もちゃんと伝わってきます。

大嶋:患者さんからは、「ロボットが手術?!先生にお願いしたいです」と言われることがありますが、精度を高めるために手伝ってくれるのがロボティックアームで、手術をするのはわれわれですので、そこはご安心ください。

人工関節が正しい位置に入ると関節の可動域が広がり、さらに合併症の抑制が期待できる
人工関節の材質自体も良くなり、20年30年と問題なくそのまま使うことも可能に

めざすのは“Forgotten joint”我慢しない日常生活を

治療を受ける患者さんにはどんなメリットがあるのでしょうか?

大嶋:まず人工関節が正しい位置に入ることで、関節の可動域が広がり、術後の合併症である脱臼の危険性が最小限に抑えられ、今までのような動作制限がなくなります。それから、人工関節を正確に入れると長持ちするというエビデンスも。そして何よりも大きいのは安全性が高いことです。削りすぎたり間違って削ったりするということはないので、関節周辺の組織を痛めることは非常に稀です。人工関節がめざすのは“Forgotten joint”。究極は手術をしたことを忘れて何も気にせず日常生活を送ってもらうことが目標になります。痛みがない、正常な可動域がある、足の長さが左右できちんとそろっているなど人工関節を安全に設置するだけではなくて、プラスアルファも追求しています。

大江:医療者の目線で言うと、人工関節の手術は最終的な結果を見るまで常にきちんと入っているかドキドキするものなのですが、計画したようにできあがるロボティックアームのおかげでそのストレスが軽減されました。大嶋先生はどうですか?

大嶋:まったくその通りだと思いますね。本当に計画通りに入りますから。だからこそ術前計画が本当に重要で、間違った計画は立てられないです。僕はロボティックアームを使うことで、手術中に考える時間も減って、安全性も保てることに非常にメリットを感じています。本来は若い医師の教育ツールにも使いたいのですが、現時点では限られた医師しか使えないことが少し残念です。

大江:ロボティックアームによる手術は保険適用ですが、実は現時点では、ロボティックアームがあるからといってたくさん診療報酬がついているわけではありません。

大嶋:特別な加算がないということは、患者さんには従来のナビゲーション法とまったく同じ医療費で先端技術の手術を受けていただけるということ。これも大きなメリットなので、たくさんの人に受けていただきたいです。

大江:当院は総合病院なので、心臓や腎臓などに病気がある人は院内各科との連携で対応できますし、精神科もあるので、術後の精神状態もきめ細やかにフォローできる体制が整っています。

大嶋:良性疾患の待機手術は、それほどお待たせすることなくできると思います。

大江:今はどうしても新型コロナウイルス感染症の情報が最優先で、その他の医療情報は患者さんの心には届きづらいかもしれません。でもいつか患者さんの心に余裕ができたときのために、われわれは着々と準備を進めてまいります。

大嶋:痛いけれどなんとか生活できている、スポーツをやりたいけれど我慢しようと思っている人にはぜひ、人工関節に対する正しい知識を知っていただきたいです。痛みもないスポーツもできる体になることが期待できます。ぜひご相談ください。