気になる症状を放置せず、早期発見のきっかけに!

もの忘れ?それとも認知症?

年齢を重ねると、誰でも記憶力が衰えてもの忘れが増えるもの。有名人の名前や、財布や手帳をしまった場所、朝食べたものなどを「ど忘れした」経験がある人は多いでしょう。こうした年齢によるもの忘れは誰にでも起こり得るもので、過度に心配する必要はありません。テレビで歌っている歌手の名前が思い出せないことがあったとしても、ヒントを出してもらって「ああそうだった!」と思い出せるなら、よくあるもの忘れの範疇だといえるでしょう。しかし、こうした症状のすべてを「年のせい」で片づけてしまうのは危険です。日常的なもの忘れの中には、認知症の初期症状が隠れていることがあるからです。

自分の体験を忘れるようになったら要注意

もの忘れと認知症を早期に見分けることは容易ではありません。単純な記憶の障害が認知症の始まりであることもあれば、そのまま進行せずに過ぎていってしまうこともあります。しかし、一般的には典型的な認知症のもの忘れには「自分が直近で体験したことを忘れてしまう」という特徴があります。例えば友人と待ち合わせをしたのにその時間や場所を忘れてしまうことはある程度理解できる範疇ですが、友人と待ち合わせをしたという事実自体を忘れてしまうのは、自らの体験記憶の障害であり、認知症を疑わせる重要な症状の一つです。このように直近で体験したことそのものを忘れてしまうと、周囲の人に何度も同じことを聞いて困惑させてしまいます。また鍋を火にかけたまま出かけようとしたり、掃除機のかけ方がわからなくなったりと、生活に支障が出るようになれば、より認知症を疑わなくてはなりません。まずは、次のチェックリストを参考に、自分や家族に当てはまる症状がないかを確かめてみましょう。

認知症の種類

認知症を引き起こす疾患のうち、代表的なものは以下の4つです。現時点ではいずれも根本的な治療はありませんが、アルツハイマー型認知症は薬によって症状の進行を遅らせることができます。

アルツハイマー型認知症
アミロイドβとタウと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積することによって神経細胞が減少し、脳が全体的に萎縮することで起こるアルツハイマー型認知症。認知症の中で最も多い、変性性認知症の一つです。
新たに経験したことを記憶できない症状から始まって緩やかに進行し、次第に判断能力も低下します。

前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、人格や理性に関わる前頭葉と、言葉に関わる側頭葉が萎縮して起こります。そのため、アルツハイマー型認知症に見られるような記憶障害よりも、社会性や道徳観が失われることによる人格変化や行動異常、会話の減少などが初期から顕著に現れます。

レビー小体型認知症
αシヌクレインというタンパク質からなるレビー小体が脳に蓄積して起こるレビー小体型認知症は、症状の良いときと悪いときの変動が大きいのが特徴。本来ないものが見える「幻視」、睡眠中に大声を出したり暴れたりする「レム睡眠行動障害」、動作がのろくなったり筋肉がこわばるといった「パーキンソン症状」などの症状があります。

血管性認知症
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など、脳卒中が原因の認知症です。脳血管が詰まったり、破れたりすることによって血流が阻害され、阻害された先の神経細胞が死滅します。血管障害の生じた場所によって症状は異なりますが、記憶障害をはじめ歩行障害、抑うつといったさまざまな症状が早期から現れることもあります。

その他

認知症全体の5〜10%の割合で、治療が可能な認知症が存在します。

慢性硬膜下血腫 脳を包む膜の一つである硬膜の下に血液がたまって血腫となり慢性的に脳を圧迫し、認知機能の低下や麻痺、意識の障害をきたします。頭部外傷をきっかけに、数日から数週間遅れて急に認知機能低下を生じたり、もともとの認知症が急に悪化した場合には注意が必要です。
正常圧水頭症 脳脊髄液が脳室にたまり、脳室が拡大します。認知機能の低下のほかに小刻みな歩行や失禁といった症状が見られます。脳脊髄液を抜くような手技で症状が改善するため、脳外科手術で治療が期待できます。
ビタミン欠乏症 認知症に似た広範囲な神経症状が起こります。ビタミンB1欠乏やB12欠乏が有名ですが、不足したビタミンを補うことで、認知機能の回復が見込めます。
甲状腺機能低下症 新陳代謝を担う甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、活動力が低下して記憶障害などが現れます。甲状腺ホルモンの補充で治療が期待できます。

「認知症かな?」と思ったら、検査で原因を突き止めることが重要

「認知症」というと、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のイメージが強く、「薬で症状の進行を遅らせることはできても、根治は見込めない」と思い込んで諦めてしまいがちです。しかし、認知機能の低下にはさまざまな原因があり、適切な治療をすれば機能回復を望めるものも少なくありません。ご自身やご家族に認知症を疑う症状が見られたら、必ず専門の医療機関で検査を受けましょう。