直接命に関わることは少ないものの、かゆみや痛み、見た目の問題に悩む人が多い皮膚の疾患。症状が長引くことも多く、「一生付き合うもの」と諦めている人も多いのではないでしょうか。
一般にはあまり知られていませんが、皮膚科の治療は年々進化を遂げており、専門の医師の診断・治療によって劇的に改善することがあります。よくある皮膚疾患に対して、今できる最善の治療をご紹介します。
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見た目だけでなく集中力が向上するケースも! 皮膚疾患の治療
ありふれた皮膚疾患も「正しく診る目」が重要
近年、「内科・外科・皮膚科・アレルギー科」といったように、複数の診療科目を標榜して広く患者さんのニーズに応えるクリニックや診療所が増えています。皮膚のトラブルは頻繁に起こり得るものですから、普段から親しんでいるクリニックに気軽に相談できることの利便性は非常に高いと考えます。高次医療機関と連携がとれているクリニックなら、症状の重症度や治療の難易度に応じて適切な医療機関を紹介してもらうことができるでしょう。 他方、皮膚科を専門とする医師の診察を受けることにも大きな意味があります。例えば、ただの湿疹のように見える症状であっても経過観察を待たずとも皮膚疾患と見分けたり、隠れた重症の疾患を見つけたりすることができます。また、日進月歩で発展する皮膚科医療の新しい知見や技術をいち早く獲得しているため、より効果がある治療を速やかに受けられるのもメリットだといえるでしょう。 いずれにせよ、患者さんには、一人ひとりの状態に応じた効果の高い治療を選択し、「まあ、こんなものだろう」と考えていた症状を改善して生活の質を上げていただきたいと思います。
皮膚疾患専門の常勤医5名が地域医療をバックアップ
「アトピー性皮膚炎」や「乾癬」は、治療が劇的に進歩した疾患の代表例です。詳しくは後述しますが、アトピー性皮膚炎や乾癬は見た目に症状が現れるため、人の視線が気になる、肌を露出するのが怖い、など精神的なストレスも多い疾患です。乾癬は10~14%の患者さんに関節症状を伴うことがあります。どちらも根本的な治療法が見つかっておらず、長らくステロイドなどの塗り薬で症状をコントロールする方法が取られてきました。ステロイドの塗り薬は効果的で、用法・用量を守って使用する分には何の問題もありませんが、皮膚が薄くなるなどの副作用があり長期的な使用には適していません。
しかし近年では、ステロイド以外の塗り薬や、塗り薬で十分な効果が得られない方のための飲み薬、より重症の方にも有用な飲み薬や注射薬が開発され、治療の選択肢は拡大しました。現在、乾癬とアトピー性皮膚炎に用いることができる生物学的製剤(注射薬)やJAK阻害薬(飲み薬)は複数あり、患者さんの基礎疾患やライフスタイルに合わせて投与方法などを選ぶことができます。乾癬とアトピー性皮膚炎については、生物学的製剤やJAK阻害薬によってかなり症状をコントロールできるようになりました。
皮膚疾患に対する治療法
乾癬
【症状】 乾癬の日本での発症率は約3%で、中高年に好発します。 一番頻度の高い尋常性乾癬の他、乾癬性関節炎などいくつかのタイプがあります。細胞のターンオーバーが早くなり過剰に増殖し、厚い銀白色のうろこ状の鱗屑(りんせつ)を伴った赤い発疹が見られます。他の人にはうつりません。
【原因】 体質や外的要因、免疫学的要因により発症します。
【治療法】 重症度により治療法は異なります。 活性型ビタミンD3やステロイドの塗り薬などの外用療法を基本とし、状態により紫外線療法や内服薬、生物学的製剤(注射薬)による治療を行う場合があります。
アトピー性皮膚炎
【症状】 アトピー性皮膚炎は、かゆみのある左右対称性の湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返します。 乳幼児期から発症することがありますが、 小児期までで症状が出なくなる場合もあれば、成人まで症状が持続する場合もあります。
【原因】 皮膚のバリア機能異常とアレルギー炎症、かゆみの3要素が関連して発症します。
【治療法】 外用療法が基本ですが、 長年主に使用されてきたステロイドの塗り薬の他に、最近では非ステロイドの塗り薬も複数発売されました。また、 全身療法として、 JAK阻害薬などの内服療法や生物学的製剤など治療の選択肢が広がっています。
急性期病院でしかできない高度な治療にも注力
生物学的製剤は、皮膚科の診療に目覚ましい変化をもたらしました。しかし、皮膚科疾患に適応のある生物学的製剤は、生物学的製剤承認施設の認定を受けた施設でしか使用することができません。当院は認定施設として、クリニックの治療で改善が見られなかった場合の受け皿となっています。現状を甘んじて受け入れている方も、どうか諦めずに、より良い結果をめざしていただきたいと思います。
皮膚疾患には重症例に限らず、QOLを低下させるものが多く、治療が奏功すると「初めてかゆみのない生活を経験し、仕事の効率が驚くほど上がりました」「見た目に自信が持てるようになり、外出が楽しくなって人生が変わりました」といったフィードバックをもらうことがあります。髪の毛などで顔を隠すようにしていた方が、治療の成果が出るにつれて露出を嫌がらなくなり、やがて顔を見せて来院してくれるようになったこともあります。このように、皮膚疾患は、生活の質や精神面と強く結びついています。皮膚疾患が改善されることで、ときに人生すら変わることもあるのです。皆さんが生き生きと人生を楽しめるように、今後も新しい知見の獲得と提供に努めてまいります。
先生にお話を聞きました!
皮膚科 部長 出月 健夫
1994年浜松医科大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、虎の門病院を経てNTT東日本関東病院へ。下肢静脈瘤の治療の皮膚科領域におけるリーダー的存在で、初診から手術、圧迫療法の指導まで自ら行う。得意分野は皮膚科一般、皮膚外科、レーザー治療、下肢静脈瘤。日本皮膚科学会皮膚科専門医。
医師 井波 真矢子
2012年金沢大学医学部卒業。黒部市民病院、金沢大学附属病院、福井県立病院で研鑽を積み、NTT東日本関東病院勤務。あらゆる皮膚疾患の先端的な治療の知見が豊富で、患者さんへの周知にも尽力する。日本皮膚科学会皮膚科専門医。