首からお尻まで長く伸びる脊椎は、体を支え動かす働きをしています。何らかの原因で脊椎に変形や炎症、圧迫などが起きると、痛みやしびれが生じ、日常生活に支障を来します。脊椎内視鏡下手術は、脊椎に生じるさまざまな疾患に対して行われる、患者さんの体に負担の少ない治療法です。
保存療法が効かない場合に内視鏡下手術を検討
内視鏡下手術の進歩は目覚ましく、近年は脊椎の分野でも積極的に内視鏡下手術が行われるようになりました。脊椎疾患は、中年以上の男性に多い頸椎症性神経根症や頸部脊柱管狭窄症(頸椎症)、中年から増え始めて高齢者の多くが罹患しているといわれる腰部脊柱管狭窄症、20代から40代にかけての青年や壮年に多い腰椎椎間板ヘルニアなどが代表的です。痛みやしびれ、歩行障害などを引き起こし、日常生活に支障を来すことも少なくありません。
脊椎疾患に対しては、内服・外服薬の処方、装具による固定、ブロック注射といった保存療法が行われ、症状の改善が見られない場合に手術を選択するのが一般的です。脊椎内視鏡下手術は、手術の際の負担を軽減し、早期回復をめざす手法です。
脊椎内視鏡下手術の2つの方法
脊椎内視鏡下手術には、大きく2つの方法があり、患者さんの症状に応じて使い分けています。
Micro Endoscopic surgery
16-18mmの内視鏡スコープのついた手術器具を脊椎骨の上に置き、その中で手術を行います。基本的な考え方として、骨の除圧、靭帯の除去が必要な場合に選択されます。
Full Endoscopic surgery
7-8mmのスコープがついた細長い筒を脊椎骨のすぐそばまで挿入して、生理食塩水で洗浄しながら手術を行います。原則として、ヘルニアを取るだけの場合に選択されます。
一部を除く多くの症例で内視鏡下手術を実施できる
現在、全国における脊椎手術約13万件のうち、脊椎内視鏡下手術は2万件(※1)です。全国の脊椎手術のうち、15%が脊椎内視鏡下手術で行われており、近年の手術デバイスの改良によりさらなる飛躍が期待されています。
当科では、脊柱変形の手術、腰の疾患に対して神経損傷のリスクを低減する間接除圧術、神経腫瘍、脊椎転移、外傷などを除けば、頸椎から腰椎まで神経の直接除圧を行う手術の多くで脊椎内視鏡下手術が可能だと考え、適応症例には積極的に実施しています。また、頸椎疾患については、前方法による手術でも皮切が3~4cm程度の低侵襲手術を行っていますので、内視鏡下の後方除圧術の適応にならない場合も早期社会復帰ができるよう適宜考えながら治療を行っています。
体へのダメージを最小限に術後の早期回復を実現
脊椎内視鏡下手術の最大のメリットは、手術時に体に加わるダメージが少ないことです。昔のように大きく切開することなく、ごく小さな手術痕で処置します。傷が小さいため、痛みも出血も少なく、術後の早期回復が期待できます。
なお、術後の長期的な経過は、切開する手術と変わりません。入院期間も、切開する手術が10日から2週間であるのに対し、術後に血腫予防のドレーンを入れた場合で5泊6日、入れない場合は3泊4日と、従来の半分ほどで退院が可能です(※2)。
- ※1 DPCデータによる分類、および日本整形外科学会の2020年度データによる
- ※2 内視鏡下固定手術は除く
脊椎内視鏡下手術におけるNTT東日本関東病院の強み
- ➀脊椎内視鏡下手術を専門とする医師が在籍し、症例に合った適切な術式を選択できる
- ➁総合病院の強みを生かし、合併症がある人も受け入れ可能
- ➂頸椎の手術は、症状に応じた有用なアプローチで実施できる
脊椎手術を受けるにあたり、不安を感じる患者さんは多いと思います。当院では、脊椎内視鏡下手術の専門的な訓練を積んだ医師が在籍し、適切な術式の選択で早期社会復帰をサポートします。安心して受診して下さい。
先生にお話を聞きました!
整形外科 医長 大科 将人
2004年秋田大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院整形外科・脊椎外科、コロンビア大学、稲波脊椎・関節病院などを経て、2019年より現職。急を要する患者の手術機会を逃さず対応できるよう、脊椎疾患に注力してきた。得意分野は整形外科全般、脊椎内視鏡下手術、頸椎疾患、腰椎疾患。