医師、看護師、リハビリテーション部、管理栄養士がチームとなり、周術期を総合的に管理します。
周術期とは?
周術期とは、手術が決定した外来から入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰までの、患者さんの術中だけでなく手術前後を含めた一連の期間のことです。
周術期管理を大きく変える チームで支える術後の回復
泌尿器の分野では、先端の技術による腹腔鏡下手術やロボット支援下手術といった低侵襲治療が定着する一方で、患者さんの術後の回復のサポートについては、欧米より20年以上遅れをとっています。 当院の泌尿器科では、2021年からロボット支援根治的前立腺摘除術(RARP)、ロボット支援根治的膀胱摘除術(RARC)の周術期管理に術後早期回復プログラム(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)を取り入れています。
術後の入院生活、こんなに違います!
❶ 手術前後の絶食時間の短縮
膀胱全摘術ではおならが出てレントゲン写真に異常がないことを確認してからの食事再開でしたが、ERAS導入後は手術後3時間でガムを咀嚼し、ジュースやゼリーを摂取していただきます。RARPでは当日の夕食から通常食、RARCでは翌日から流動食を提供します。
❷ 手術後の早期離床と歩行
従来、手術当日はベッド上で安静としていましたが、ERAS導入後はほとんどの患者さんが手術当日に離床することができています。医師、看護師、理学療法士、作業療法士のサポートのもと手術後3時間で離床していただき、無理のない範囲で歩行も行っていきます。
❸ 痛みを感じさせない疼痛管理
全身麻酔に硬膜外麻酔、腹直筋筋膜ブロックなどを併用します。定期的にアセトアミノフェンを投与し、さらに必要に応じてNSAIDsを内服していただくことで術後の痛みをしっかりと抑制します。麻薬の使用を極力減らし、自然な形で手術後の腸管機能の回復に努めています。
❹ 早期に管のない生活へ
胃管、ドレーン、点滴などの付属物は患者さんの動きを妨げます。早期離床をめざして、RARP,RARCともに経鼻胃管は手術終了時に、RARCでは手術翌日にドレーンを抜去しています。RARPではドレーンは留置しません。点滴は食事が摂れるようになり次第、早期に終了しています。
先生よりメッセージ
ERASは多職種による総合的な周術期管理で、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、薬剤師が1つのチームとなり手術前から手術後までをサポートします。手術当日の離床や歩行、絶食時間の短縮などによって患者さんの周術期管理を大きく変えてきました。実際に、膀胱全摘術では合併症の減少や入院期間の短縮、術後の腸閉塞などの合併症の大幅な減少など、大きな成果を上げています。ロボット支援下手術に代表される低侵襲手術とERASを組み合わせることで、患者さんにより良い医療を提供できると確信しています。今後も改善を続けながら、トータルでより良い医療を患者さんに提供できるよう努力してまいります。
先生にお話を聞きました!
泌尿器科部長 中村 真樹
2001年東京大学医学部卒業。2011年東京大学大学院医学系研究科外科学専攻修了。専門は、泌尿器悪性腫瘍、ロボット支援下手術。東京大学医学部附属病院などでの勤務を経て、2023年より現職。東京大学医学部非常勤講師。東京医療保険大学 大学院看護学研究科 臨床教授。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。