肩の腱板断裂とは?

腱板は、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋肉でできています。一般的にはインナーマッスルと言われ、肩の周りを安定化させる役割を担っています。この腱板が外傷や肩の酷使、加齢などによって切れてしまうことを腱板断裂といいます。似た症状に五十肩がありますが、五十肩は突然炎症が起き時間の経過とともに治っていくのに対し、腱板断裂は炎症を起こすきっかけがあるほか痛みに波があり、放置したままでは治らないことが多いのが特徴です。断裂の大きさによって症状が違うため、患者さんに合った治療をすることが重要です。

治療法

関節鏡視下腱板修復術

関節鏡という内視鏡を使って、肩の周囲に1cm程度の穴を開けてそこからカメラを挿入し、断裂した腱を縫合する方法です。骨の中に直径5mm程度の糸のついたビスを打ち込み、その糸を腱に引っ掛けて縫い付けていきます。手術時間は1時間程度で、侵襲が小さいのが特徴です。

移植

太腿など患者さんの体の別の場所の腱を肩に移植することで、断裂しているところを補い腱板機能を再建します。断裂サイズが大きくて修復困難な場合、年齢が若い人の場合に有用な方法です。

リバース型人工関節

けん玉のような構造になっている肩の形状を受け皿とボールの位置をひっくり返し、不安定な肩の関節をある程度安定化させる方法で、腱板がなくてもアウターマッスルである三角筋の力だけで手が上げられるようになります。このひっくり返す処置にちなんでこのような名称になりました。国内では2014年に認可され、症例数も年々増えています。

衝撃や肩の酷使、きっかけとなる動作の後の肩の痛みには要注意

肩の疾患は夜に痛みが起こることが多く、腱板断裂では肩を動かすと痛い、引っかかる感じといった症状が起こります。さらに断裂サイズが大きくなってくると最終的には力が入らなくなり、腕が上がらなくなります。
腱板が切れる原因はいくつかあり、転倒や交通事故などの外力、スポーツで肩を酷使した、加齢、遺伝的な問題とさまざまですが、転んで手をついてから肩が痛む、車の助手席から後部座席の荷物を取ろうとしたときや背中を洗っているときに急に痛みが走ったなど、きっかけとなる動作があることが多いです。一方で、時間をかけて自然に腱が擦り切れている場合、他の腱がバランスをとって機能することで症状が出ないこともあります。

MRIで確定診断し治療を決定 手術や保存療法の中から患者さんに合った治療を選択

腱板断裂の診断は、問診、診察、腱板の状態を診る確認テスト、レントゲンの結果を総合的に判断し、最終的にはMRIを撮って確定診断となります。
治療を決める際には患者さんのご希望やライフスタイルをお聞きし、手術、注射療法、リハビリなどの中から最終的にどの治療をするかを相談していきますが、断裂が大きくなればなるほど再断裂の可能性が高まるため、50代、60代の元気な人には早いうちに手術をお勧めすることもあります。
手術は、関節鏡視下腱板修復術、人工肩関節置換術、移植の3種類があり、人工肩関節置換術には従来型とリバース型があります。腱断裂の明らかなきっかけとなる外傷があった場合は、関節鏡視下腱板修復術という断裂した部分を縫合する治療で元の状態に戻していきます。断裂サイズが大きく縫うのが難しい場合は人工関節が有用になります。リバース型人工肩関節置換術は特殊な人工関節を使用した手術で、早期回復が期待できます。ただし、これは65歳以上が適応のため、縫合手術も人工関節も難しい場合は、患者さんの太腿から腱を移植する方法を行います。

再断裂防止のためには最低でも半年間はリハビリを

術後何よりも大切なのがリハビリで、当院では手術の翌日から最低でも半年間は理学療法士の指導のもとリハビリを行います。入院期間は一般的には最短で3泊4日、平均1週間から10日になりますが、肩を固定する外転装具を3週間使用するため、ご高齢の一人暮らしの方などは装具が外れるまで入院することも可能です。
術後は普通に生活をしていただけますが、再断裂のほとんどが3ヶ月以内で起こっていることから、3ヶ月間は、重い物を持つ、包丁で硬いものを切る、雑巾掛けなど負担のかかる動作は控えていただいています。術後3ヶ月には超音波で経過を検査し、問題がなければ負担のかかる運動も許可しています。ゴルフで例えるとアプローチショットも再開でき、半年後にはコースに出ることも可能です。この期間は非常に重要なため、再発防止のためにしっかり守っていただいています。

先生よりメッセージ

肩の構造は複雑で、さまざまな病状があるのが肩の疾患の特徴です。痛みはあるけれどレントゲンで異常がないから大丈夫ということはありません。MRIを1枚撮るだけでもわかることがあるので、長く治療に通っても肩の痛みが改善しなければ、早めに専門の医師にご相談ください。