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薬と機器の進歩で術後の成績は 確実に向上中
鼻や喉、口などの領域にできる「頭頸部」のがん。切除手術が基本ですが、「息をする」「声を出す」「食べ物を飲み込む」といった生活上の機能に大きく関わる部位であり、手術によって見た目に少なからず影響が及ぶため、根治性と術後の生活の質のバランスを見極めて集学的治療を実施します。
「外側から頸部を切開してがんを取り除く治療が一般的だった咽頭部や喉頭部のがんも、早期なら口の中から機械をいれて経口的に手術できるようになり、機能の温存性が高まりました」と耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長の中尾一成先生。手術にあたっては、医療機器のプロフェッショナルである臨床工学技士と連携し、機器の安全性を担保しています。
「手術の前は、必ず手術機器や生命維持管理装置の保守点検を行い、動きに問題がないことを確認します。新たな機器を入れたいとご相談があれば、医療機器メーカーと打ち合わせをした上で使い方をレクチャーすることもあります」(三浦さん)
ロボット支援下手術のメリット
- 従来の方法では十分な視野が得られない部位まで 経口切除ができる
- 嚥下や発声などの機能を温存しやすい
- 小さな部位に対しても繊細な作業が可能
- 切除範囲が小さいので入院期間が短くて済む
- 術後の傷が目立ちにくい
喉の違和感が続いたら 放置せず早めの受診を
頭頸部がんのうち6割は口や喉にできるがんで、治療期間が長く、機能や見た目の欠損が大きくなる傾向にあります。喉頭がんでは初期から「声のかすれ」や「喉の違和感」といった風邪に近い症状を自覚できますが、咽頭がんは初期症状が出にくいため、人間ドックなどを活用しましょう。最近は、胃カメラの進化によって、消化器内科の検診で発見されるケースも増えてきました。飲酒や喫煙が誘発因子になることも多く、生活習慣の見直しも有用です。
早期の咽喉頭がんには ロボット支援下手術も活用
一部の咽頭がん、喉頭がんに対しては、口からロボットのアームを挿入して行うロボット支援下手術も積極的に活用。2022年からは保険適用の範囲が広がり、手術件数が増加しました。
「中咽頭がんには首を切開して行う方法、経口的に内視鏡を挿入して行う方法が行われてきましたが、視認性と操作性に限界がありました。ロボット支援下手術なら、喉の奥の疾患が目の前に見える状態で実施でき、最小限の切除で最大の機能温存を実現できます」(中尾先生)
手術には臨床工学技士も同席。安全な治療を全力でバックアップ
ロボット支援下手術を行う場合、臨床工学技士の存在が必須。
手術前の保守点検や準備はもちろん、手術中に機器の使用に関するサポートが必要なときや、万が一の機械のトラブルに備えて手術室に常駐しています。執刀医、看護師、麻酔科の医師、臨床工学技士が緊密に連携することによって、質の高い手術を実現しているのです。
「がんのステージや部位、社会復帰後の暮らしなどを踏まえて選択肢を提示し、チーム医療でベストな治療を行ってまいります」(中尾先生)
頭頸部のがんは、根治性の追求と同時に機能をどこまで温存できるかを念頭において手術を行います。ロボット支援下手術を含めて、最善の治療を検討・実施いたします。
機器類をストレスなく使えるよう維持することは、手術の質を高める上で非常に重要です。ドクターがイメージ通りに手術を行えるよう、チームの一員として全力を尽くします。
お話を聞きました!
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長 中尾 一成
1992年金沢大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、癌研究会附属病院頭頸科に勤務。医学博士取得後、2007年からペンシルバニア大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科へ留学。2009年から現職。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会耳鼻咽喉科専門医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医、一般社団法人 日本頭頸部癌学会 代議員。
臨床工学部 医療技術主任 臨床工学技士 三浦 貴之
2007年よりNTT東日本 関東病院勤務。人工心肺、呼吸器領域、透析領域などの医療機器の保守・点検・管理・操作を担う。新しい機器導入時のシミュレーションや指導のほか、日々の手術にも同席して医師の機器活用をサポートする。「ロボット手術も、臨床工学技士さんあってこそ」と中尾先生も全幅の信頼を寄せる存在だ。