梅毒など再流行する感染症や未知の感染症に対応

グローバル化が進み、人や物とともに地球上のあらゆるウイルス、細菌が国内に侵入する可能性が高まっています。こうしたリスクに備えるとともに、内科系専門診療科を拡充すべく、当院では2019年4月に感染症内科を設けています。
当科は他の内科系診療科では対応が困難な、特殊な感染症をカバーしています。1つは、新型インフルエンザ、エボラ出血熱などの新しい病原体によって起こる「新興感染症」。2つ目は、梅毒や結核のように一度は患者数が減少し、制圧できていたものが再流行する「再興感染症」。そして3つ目はマラリア、デング熱に代表される海外からの「輸入感染症」です。
中国・武漢で発生した新型コロナウイルスは新興感染症にあたり、感染が確認されてから早期に、感染を疑う方の動線分離を計画、病原体の流出を防ぐ陰圧室で診療を行うなど対策を講じました。一時は専用病棟を設け、軽症者や中等症患者の受け入れを行ってきました。現在では感染症法の5類に指定されたことから、専用病棟を廃止し、通常診療の一環として各病棟の個室を使用した入院対応に移行しています。感染症内科では、各診療科に入院する新型コロナウイルス感染症患者さんの治療方針をアドバイスするなどして診療のサポートを行っています。

感染症×総合診療に精通するエキスパートがそろう

私たちの役割の中で最も重要なポイントは、目の前の患者さんが本当に感染症なのか、どのウイルス・細菌による、どの臓器への感染症なのかを明確にすることです。画像検査、血液や尿、喀痰を分析する微生物検査、迅速抗原検査などを必要に応じて実施し、正確な診断に役立てます。そして最終的に、全身のあらゆる病気の可能性を踏まえながら、一つの答えを導き出さなくてはなりません。そこで問われるのが、総合的な診断能力です。当科の医師はそれぞれ呼吸器感染症、熱帯医学を得意とする感染症の専門家であると同時に、一つの臓器ではなく全身を診る総合内科の豊富な診療経験を持っています。これは大きな強みといえるでしょう。

院内の感染制御を主導する「感染対策推進室」

安全・安心の医療環境を維持する上で欠かせないのが、感染症の伝播防止を担う感染対策推進室です。医師、看護師、事務員からなるスタッフは全職員に対し、個人防護具の管理、手指衛生、医療機器の消毒・滅菌などの技術的なアドバイスを行うほか、薬剤耐性菌対策として抗菌薬の適正利用を促しています。抗菌薬は標的の絞られた薬剤を選び、使えるときは十分な量を、なるべく短期間で投与することが重要です。こうした知識を診療に反映させ、合併症のコントロールがうまくいく、入院期間が短くなるといった、患者さんにとって良い結果につなげることが最終的なゴールです。他の診療科から相談を受けた際は、なるべく直接患者さんの顔を見て、正確に状況を把握するよう努めています。患者さんや担当医の先生方から「感染症内科がいてくれるから大丈夫」と思ってもらえるよう、引き続きこまやかな対応を心がけ、全診療科を横断的にサポートしていきたいと思います。

日々いろいろな物に触れる私たちの手には、感染症の原因となる微生物が付着していることがあります。手洗い、アルコール消毒で手指の清潔を保ちましょう。皮脂がはがれてひび割れを起こすと、そこからブドウ球菌が入り込んで細菌を除去できないことがあります。手洗い、消毒後はすぐにハンドクリームを塗ることも大事です。