はじめに
皆さんこんにちは、NTT東日本関東病院、乳腺外科部長の沢田晃暢(てるまさ)です。今回は、乳がんについてお話ししたいと思います。
最近、皆さんの周りで乳がん患者さんが多くなったと感じていませんか?実はこの20年で乳がん患者数は約2.7倍も増えているのです。
出典:がんの統計2025_図表編 40P

日本での乳がんの生涯発症数は女性9人に1人となっております。特に特別な世代が多くなってきたわけではなく、全世代に渡って、乳がん患者さんが増加しております。
出典:がんの統計 2024:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
乳がんではあまりステージ分類を使わない?
乳がんと診断された患者さんの中でも、あなたのがんのステージはIですよ!などと言われた方もいると思いますし、実際のステージ分類を言われていない方もいらっしゃると思います。
乳がんの場合、実際に治療を決めるのは、乳がんの病理タイプによって治療法が決定します。そのため、ステージ分類を明らかにする必要がないのです。
女性ホルモン(ER,PgR)が影響しているのか?HER2が影響しているのか?によって化学療法の選択やホルモン療法の選択が行われます。
乳がんのステージ分類はがんの大きさで決まりますが、もし仮に、腫瘤の大きさが1㎝の二人(A.B.さん)の乳がん患者さんがいた場合、治療法がどうなるかを考えてみたいと思います。AさんはER(+),PgR(+),HER2(-)の乳がん、BさんはER(-)、PgR(-)、HER2(+)の病理結果であった乳がんの場合ですが、わたくし共は、Aさんには手術を選択し、Bさんには化学療法選択後の手術を選択することになります。このように、同じ大きさでも、乳がんのタイプによって治療選択が全く異なります。そのため、ステージ分類が役に立たないのです。もちろん、年齢なども加味されます。
乳がん患者さんの妊孕性について
女性の年齢と出産数の変化について調べた研究があります。出産数は30歳から徐々に減少し、35歳を過ぎるとその傾向は顕著になり、40歳を過ぎると急速に減少します(図1)。

(図1)
出典:一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ – 生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A):Q22.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?
乳がんに関しては、女性ホルモンのはたらきによりがんが成長をするタイプがあり、その場合、治療としては、手術で切除したあとに、女性ホルモンのはたらきを抑えるホルモン療法を5~10年ほど続けることが推奨されています。ただし、ホルモン療法で使用する薬剤は、これまで流産や奇形児のリスクがあるため、ホルモン療法中は妊娠できないとされてきました。また、妊娠や出産をすると女性ホルモンのはたらきが強まるために、再発するリスクが高まる可能性があると考えられてきました。しかし、2年間のホルモン療法後、一時的にホルモン療法を中断して妊娠出産をした場合の3年後の再発率は変わらないという研究結果が出たこともあり(※1)、再発リスクが高くない妊娠可能と考えられる女性に対しては、(特にAYA世代)妊孕性を考えて治療を行います。
もし、化学療法を受ける場合には、抗がん剤による閉経が起きる可能性があるため、あらかじめ、卵子、卵巣、受精卵などを凍結するという方法もあります。これは、婦人科の先生と連携し対応をお願いすることになります。また、ホルモン剤の投与中には、ホルモン療法を中断して妊娠出産をし、出産後改めてホルモン剤を内服する研究なども行われております。このように、乳がんのために必ずしも妊娠出産をあきらめなければならないという時代ではなくなってきています。このような場合は、是非ともご相談ください。
がんの患者さんはどこに相談したらよいのか?
乳がんに限らず、どのようながんでも、がん診療連携拠点病院には必ず、がん相談支援センターが存在しております。また、がん相談支援センターは、その病院に受診履歴が無くても相談可能です。
たまたま、近くの病院にがん相談の窓口がある場合(がん診療連携拠点病院であること)、無料で相談することができます。わからないことは何でも質問してください。上記のように妊孕性、手術、化学療法のわからないところなど、また、仕事に関しても、何でもご相談ください。がん相談支援センターは、がん患者さんのよろず相談所なのですから!
NTT東日本関東病院では、皆様の役に立つべく、できる限り頑張っております!
相談方法
電話相談または対面相談(費用無料) (対面相談時はプライバシー確保のために個室相談室もございます)
受付時間
曜日:平日
時間:9:00 ~ 17:00
休日:土・日、祝日・振替休日
年末年始(12/29-1/3)
対面相談受付
当院1F中央玄関を入り、右側の総合案内の電話受付へお越しいただき、受付の電話で②番を選択し、呼び出してください。

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先生にお話を聞きました!

乳腺外科 部長 沢田 晃暢 1989年昭和大学医学部卒業、1995年同大学医学研究科修了。医学博士。山梨赤十字病院、都立墨東病院に勤務。昭和大学病院で乳腺外科准教授を務め、2019年4月に当院の乳腺外科部長に就任。日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医。