神経内分泌腫瘍(NEN)とは
からだには神経内分泌細胞と呼ばれる細胞が広く存在し、さまざまなホルモンを分泌して体内のバランスを調整しています。神経内分泌腫瘍はこれらの神経内分泌細胞から発生し、膵臓、消化管(胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸)、肺など全身のさまざまな臓器にできることが知られています。
WHO分類という国際的な分類によって、膵や消化管の神経内分泌腫瘍は英語でNEN(NeuroEndocrine Neoplasm)と総称されます。さらに腫瘍のもつ性質によって比較的悪性度の低い神経内分泌腫瘍(NeuroEndocrine Tumor, NET)と、悪性度が高い神経内分泌がん(NeuroEndocrine Carcinoma, NEC)、それに加えて、NETもしくはNECとその他の悪性腫瘍が混在するMiNEN(Mixed Neuroendocrine -non-neuroendocrine Neoplasm)の3つに大別されます。この分類以外に腫瘍が過剰にホルモンを分泌し症状を呈する機能性NEN、ホルモンを分泌せず症状を呈さない非機能性NENに分類されます。
本ページで紹介するペプチド受容体放射線核種療法(PRRT)は、このうち機能の有無にかかわらずNETを対象とした治療です。
NETの治療について
特にNETの場合は一般的ながんよりも緩やかに腫瘍が大きくなることが知られていますが、下痢やほてりなどのホルモンによる症状を呈したり、離れたところへ転移したりすることがあるため治療を行うことが望ましいと考えられています。
NETの治療には、手術や局所治療などの外科的治療、ホルモンによる症状の制御のための治療、腫瘍を縮小させることを目指した薬物療法のほか、今回ご紹介する放射線核種を用いる治療などを受けることができるようになってきています。
ペプチド受容体放射線核種療法(PRRT)とは
核医学治療(放射線内用療法)は、放射性医薬品を体に注入して、体の中から放射線を照射する治療法です。すでに本邦でもI-131(ヨウ素)、Y-90(イットリウム)、Lu-177(ルテチウム)、Ra-223(ラジウム)の原子を用いた放射性医薬品による治療が甲状腺疾患、褐色細胞腫、リンパ腫、転移性骨腫瘍などに応用されています。
ペプチド受容体放射線核種療法(PRRT)とは核医学治療の一種で、神経内分泌腫瘍に発現するソマトスタチン受容体に特定の物質が結びつく性質を利用した治療法です。ソマトスタチン受容体に結合するソマトスタチン類似物質にキレート(強い結合力をもつ有機化合物)とβ線を出すLu-177という放射性物質を結合させ、細胞の内側から腫瘍細胞に傷害を与えます。(商品名:ルタテラ®)
NETをもつ患者さんのうち、安全に手術を行うことが難しい場合などの治療の選択肢となります。
PRRTの治療
ルタテラ®は、30分かけて8週間間隔で最大4回まで点滴静注します。腎臓への被曝を低減するため、1000mL中にアミノ酸製剤を一緒に点滴いたします。副作用はホルモン分泌異常(クリーゼ)や腎機能障害のほか、通常の化学療法でも認められる悪心、食欲不振や骨髄抑制なども報告されていますが、頻度としては少ないことが知られています。
ルタテラ®は放射性物質であるため周囲への被ばくの危険性を伴います。そのため、治療日から放射線量が医療法で定められた一定基準値以下になるまで(多くは2泊3日)決められた病室内で過ごしていただきます。

治療の流れ
1)入院期間
2泊3日(退院日に測定する身体の放射線量によって退院が延期になる可能性があります)
2)入院病棟:9B病棟 個室(特別措置病室)
入院する部屋は、放射線の放出に対して周囲への被ばくを考慮した特別な病室です。
※個室料金はかかりません。
放射線を含むルタテラ®の多くが尿から排出されるため一般下水に流すことができません。
そのため、入院中は専用の鉛の容器に尿を貯めて、流さないよう注意していただきます。また、トイレ内が汚染してしまわないよう、床などにカバーをしています。


放射線の放出に対して周囲への被ばくを考慮した特別な病室

放射線の放出に対して考慮した特別なトイレ
3)入院から退院までの主な流れ
入院日:
病室でスタッフから治療の説明、注意事項などの確認があります。特に治療後の移動の制限や尿の管理などは、周囲の方の被ばくを避けるために重要です。
朝食後に放射線治療室に移動します。
治療当日:
治療室では全部で4時間程度の輸液を行います。ルタテラ®の投与は30分程度ですが、その後にアミノ酸製剤の点滴があります。点滴終了後は医療者とともに病棟へ戻り、翌日までは個室のなかでお過ごしいただきます。
退院日
投与翌日の朝には、医師と放射線技師が専用の測定器を用いて、放出される放射線量を測定します。測定量が退出の基準値を下回っていれば、退院が許可されます。放射線量が基準値より高い場合には退院が延期となる可能性があります。
以後は定期的に外来で副作用の有無などを確認しますので、数週間ごとに来院していただきます。
PRRTを含めNETのそれぞれの治療には高い専門性が求められるため、NETの治療を受けられる病院は多くの専門家が包括的に関わることができる病院に限られています。NTT東日本関東病院では放射線核種治療を導入し、薬物療法を専門とする腫瘍内科、放射線治療や核医学治療を専門とする放射線科だけではなく、総合病院としてNETをもつ患者さんへすべての治療を届けることができるようになりました。NETやがんを含めたさまざまな悪性腫瘍に対する包括的な治療を行っています。腫瘍に関してお困りのことがあれば、当院にいつでもご相談ください。
先生にお話を聞きました!

腫瘍内科部長 倉持 英和
1994年筑波大学医学専門医学群卒業。専門は消化器がん化学療法。東京女子医科大学病院などでの勤務を経て、2024年より現職。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。日本遺伝性腫瘍学会遺伝性腫瘍専門医。日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。

放射線科部長 山田 晴耕
1995年徳島大学医学部卒業。専門は神経放射線診断、核医学。東京大学医学部附属病院などでの勤務を経て、2017年より現職。日本医学放射線学会放射線診断専門医。日本専門医機構放射線科専門医。日本核医学会核医学専門医。日本核医学会PET核医学認定医。